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ワールドハウル  作者: シンク
1章 森の狩は慎重に
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8話 引かれる手と惹かれる手

「あの! ちょ、ちょっと待ってください!」


 手を引かれて転びそうになりながら私は叫ぶ。

 気付いて振り返った彼は慌てた表情を見せ、今度は私の肩に手を添える。


「あぁごめん。怪我はない?」

「怪我はないですけど、その……今は一人で居させてほしいとか思ってまして……」


 嘘はついていない。レベルは確かに欲しいけれど、この人と一緒には戦えない。それに色々試してみたい事もあるから1人の方が楽だ。

 私の発言から数秒、場を沈黙が支配する。穏やかな風が吹き、木の葉が彼の?に当たって地面に落ちる。それを合図にしたかのようにケントさんは口を開いた。


「まぁ無理に一緒にやる必要はないか。気が向いたら呼んでくれ。いつでも待ってるから」


 その言葉のみを残し、彼は残念そうな後ろ姿を見せ、森の中へと消えていった。

 再び場が静まり、木々の揺れや風の音のみが残る。とりあえず近くの大きな木にもたれ掛かり、アイテムの整理やステータスを確認することにした。

 途中で百合音にアイテムを預け、少し余裕のあったアイテム欄は今確認すると溢れる寸前だった。その惨状を見たときは少し焦ったが、ボス戦も終わったので帰って整理すればいいと思えば気が楽になる。

 次にステータスを確認するも特に変わった項目も無く、装備欄には武器、鎧の名前が書かれている。『狩人の片手槍』という見たままの名前に苦笑するも、強化履歴の欄に目がいく。

 この槍はゲームを始めた直後、百合音から貰ったものだ。とりあえず装備しておくように言われていたのでそうしていたが、詳細に目を通すのは初めてだった。

 一番古いところから見ていくと『強化石』や『上等な強化石』というアイテムを使って強化されていたらしい。自分でもっと強化してみたいと思ったけれど、よく見ると強化限界と表示されていたので別の機会にしよう。


「とりあえず村へ帰ろう」


 独り言と共に私は帰還用のスキル『リターン』を発動させた。

 視界がブラックアウトし、槍を勢いよく振った音を伸ばしたような鈍い音の数秒後、目の前には最初に降り立った村が存在していた。

 まばらだが人は多く、ぼーっとしていたら目の前を数人が横切る。

『リターン』は登録した場所に帰還するスキルだ。何も登録されていない場合、その種族ごとの初期地点が登録場所になる。

 人間(わたし)の場合はここ『フェーゴ村』に飛ばされる。

 軽く伸びをしてからマップを開き、赤い点の付いた場所に移動する。この点はクエスト完了報告可能の意味らしく、そこにいたNPCに話しかける。NPCとはプレイヤー以外のキャラを指す言葉らしく、実際に何度も話しかけてみたが同じことしか言わなかったので本当なのだろう。

 しばらくは森でクエストを受けては完了を繰り返し、一人で特訓でもしようと思っていたが、数分後には気が変わってしまった。

 クエスト報酬で火山への通行証が貰えたおかげだ。あの大きな猪からドロップするアイテムを渡すだけのクエストがあり、該当する持っているからとりあえず完了させたら貰えたのだ。新しい場所で頑張った方がきっとレベルも早く上がる。

 そうなれば自信もきっとつくはず。あの時は百合音やウトに助けてもらったにも関わらず自分は動けないでいた。

 ゲームの中なら全く違う姿になれる。ならばせめてゲームの中だけでも自信たっぷりでいよう。そう決めて私はワールドハウルを始めたはずだった。

 そして私は無意識に目を瞑り、この世界に入る前、学校での出来事を追想していた。






 太陽が西の空に見える時間、屋上で体育座りをしながら建物に背を預け、見上げる制服姿の少女がいた。彼女は浮雲を眺め、何か考え事をしているようだった。


奏咲(そら)。ここに居たのですね」


 声のした方を向くと見慣れた顔が眼に映る。中性的な顔に眠たそうな瞳。整った髪の中央から触覚のように伸びた髪は風に揺られていて、思わず押さえつけたくなってしまうほどだ。


「はい。先輩はどうしました?」


 この人は私の通っている学校の先輩であり、よく遊んだりもしている。私を探していたようだが、やはりすぐに帰った方が良かったのだろうか。


「僕はどうもしませんが、貴女のお姉さんが探していましたよ」

「げっ!? もしかしてバレた……?」

「同じ部活ですから。そもそもなぜ行かないのですか?」


 私には一つ上の姉がいる。部活も同じでいつも比較されるのが嫌だった。それなら別の部活に入ればいいのにと思われるだろうが、最初は今みたいな事になるなんて思わなかった。姉が少しやれば大抵の事はできる人間だけに、比べられること事態辛い。それでも部活は続けてきたが、今日こそついにサボることを決めていた。


「ちょっとお腹が痛くて……」

「お腹が痛い子はわざわざ屋上で黄昏(たそが)れていません。本当の理由を聞かせてください」

「本当の理由って言われても……」

「建前はいりません。相談なら聞きますので手短に」


 先輩は私の隣に座り、自分の鞄の中を漁り始める。何かを探しているようだがものが多く、目当てのものが見つからないようだった。

 それを見ながら私は、溜め息と独り言を無意識のうちに吐き出していたらしい。


「別の世界で別の自分になれれば……」


 この時の独り言のお陰で私は今ここにいる。

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