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ワールドハウル  作者: シンク
1章 森の狩は慎重に
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5話 状況判断は的確に

 森の奥深く、少し開けた場所で赤茶色のコートを着た少年が巨大な猪と対峙していた。

 猪の上には「バイオレンス・ボア」と名前が赤文字で表示されている。


「ボス、か。たしかに思ったより強いね」


 赤文字のモンスターは通常の敵とは異なり、体力や攻撃力等様々な能力が高いボスモンスターと呼ばれる存在でもある。

 少年は両手に持った剣を構え、猪に駆け寄り、大きく飛び跳ねる。

 猪がその口元に大きく生えた立派な牙を振り上げ、少年の振り下ろした剣と音を立ててぶつかり合う。

 豪快なエフェクトと共に、両者は姿勢を崩す。もとい、少年の方は勢いよく飛ばされ、その場を囲むように生えた木々の近くに着地する。


「ふぅ。やはり正面からはきついか。それなら――」


 少年が先程とは少し違う構えをし、猪を睨みつけた時、木々の向こうから足音が聞こえた。

 新たな敵かと思い、少年はそこから距離をとり、猪と音のした方向を交互に見る。

 猪は様子を窺うように動かない。

 足音が徐々に大きくなり、やがて小さな少女が木々の隙間から顔を覗かせた。


「ほっ。なんだただの女の子か。君もここのボスに用かい?」


 この森には人型のモンスターは出現しない。緊張の糸を緩め、彼は白いフードを目深に被った少女に声をかけた。

 彼女は少年を見上げる。フードの隙間から見える空色の髪と同じ色の瞳が少年を捉えた。


「ボス? ボスと言うのは今まさに貴方を狙って突進してくるアレの事ですか?」


 少女が腕を上げ、服の裾から隠れていた細い人差し指が少年の目の前に現れる。

 その指の先には、猪がさっきの仕返しと言わんばかりの形相で走っていた。

 猪は一目散に二人の方に突進をしかけようとしている。


「やっべ! これは……」

「確実に食らいますね」

「どうしてそんな冷静に!? とりあえず君だけでも!」


 少年は驚愕の表情をし、まるで動じない様子だった少女を木々の中へと突き飛ばした。

 猪はもう彼のすぐ近くまで来ている。もう攻撃を食らうしかないだろう。そう悟った少年は両手に持っていた剣を交差させるようにして防御の構えをとる。その表情には諦めの色も見えていた。


「ちょーーーーっと待った!!」


 大声と共に強烈な打撃音が響き、少年のすぐそこまで迫ってきていた猪が吹き飛ばされ、木々にぶつかって止まる。

 衝撃と共に舞い上がった土埃が静まると、大きな剣を持ち、西洋風の黒いドレス姿の少女が誇らしげに立っていた。

 少女は彼に笑顔を送り、直後、猪に向かって剣を大きく振り上げ、背中に生えているだろう黒い翼を広げて飛び掛かって行った。


「助かった……のか?」


 腰を抜かしてしまい、少年はその場に座りこんだ。

 この森の奥深くまで一人で来れる程の実力を持つ彼だが、直前まで負けを覚悟していた。そんな状況から一変してまだ生きていて自分は安全な位置から猪と乱入者の戦闘を眺めている。状況の理解ができていないと言わんばかりに目を丸くしていると、背後から女性が彼に向かって話しかけてきた。


「横取りすみません! 彼女はああいう性格なので許してください!」


 彼が振り返って見上げると夕日のように赤い髪をした女性が立っている。彼女は動揺を隠すように笑顔で手を差し伸べていた。

 少年がそのまま何もせず、黙ったままでいると、彼女は座ったままの彼の腕を掴み、再び話しかけた。


「あの、立てますか? 私は弥生と申します。あそこで戦っているのはウトと言います」

「俺はケント。手を貸してくれてありがとう。弥生」


 ケントと名乗った少年は立ち上がり、弥生に爽やかな笑顔で感謝を伝えた。いきなり呼び捨てで呼ばれた事に違和感を覚え、弥生はただ引き攣った笑顔を見せる。そんなやりとりを木の陰からこっそりと少女は眺めていた。

 弥生はどうしていいか分からず、おどおどしていたが木陰からの視線に気付き、じっと見つめていた。目が合った直後、そこに隠れていた少女がフードを目深に被り、草を分けながら弥生達の方へ歩き出す。


「先程はありがとうございました。でも今は戦闘中です。弥生を困らせるのは――」

「困らせてはいない。それより君が無事で何よりだ。ところで名前はなんていうのかな?」


 ケントの質問に百合音は無言で居た。言葉を途中で遮ったせいで機嫌を悪くしてしまったのだろうか。百合音の表情は最初から眉一つ動いていない。数秒後、彼女は言葉での返事の代わりにメニュー画面を開き、何か操作を行った後にケントの画面に通知が表示される。


「『百合音さんからパーティ申請が届いています』?」


 無意識のうちに読み上げてしまい、少年はフードを被った少女に冷たい視線を送られる。


「なるほど。百合音、か。可愛い名前だね。よろしく」

「はい。今回限りですがよろしくお願いします」

「できればこの後も一緒に来てくれると嬉しいけどね」

「それは弥生次第ですね。彼女の決めたことならウトも従うと思いますので」


 ケントは冷たい視線など気にもせず、百合音の体にそっと手を添えながら話す。添えられた時に百合音の表情が少し強張ったような気もするが、ケントはそれを見ても引き下がろうとはしなかった。二人のやりとりを見ていた弥生は口に手を当て、慌てた様子で後退りながら見ている。

 

「えっと……とりあえず……」

「ちょっと! これ無理! 一人でも勝てるけどこれ無理!」


 弥生の言葉を遮るように一際高い声が森に響いた。ウトが大きな剣で猪の突進を防ぎながら大声をあげたらしい。

 特徴的なツインテールを頻りに動かし、三人に訴えかけるような声で叫んでいる。

 それに対する反応は三者三様だ。百合音は目線だけをウトに向け、弥生は槍を構え直す。そしてケントはウトの声とほぼ同時に猪の体に向けて両手の剣を構え、一目散に突撃していった。

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