4話 天邪鬼は損をします
「えーっとこういう時は……」
3人は森の奥深くへ進み、分かれ道の前で会議をしていた。
会議と言ってもそんな大層なものではなく、2人の少女が言い争いをしているだけと言っても過言じゃない。
「あんまり考えずに左に行けばいいのよ」
「じゃあ右ですね」
「なんでよ?」
「貴女が言うからです」
「この天邪鬼! 私が右って言ったらどうするつもりだったのよ!?」
「右に行きます。悔しいですけど左は方向的に元の場所に戻りそうなので」
感情を剥き出しにして話すゴスロリ少女と、淡々と言葉を返すハーフエルフの少女。ウトと百合音が道のど真ん中で言い合っていた。
「それに、貴女はさっき同じように自信満々に言って、行き止まりまで案内しました。壁を壊すスキルがあるなら早く使って欲しいです」
百合音が言い切り、ウトが悔しそうな表情で言い返せないでいると、近くの草むらからカサカサと草を掻き分ける音が聞こえた。
「先手必勝!」
好機とばかりに彼女は、音のした場所に剣を振り下ろす。
衝撃で木の葉が舞い、ウトの全身に降りかかる。
敵の姿は確認できなかったが、ウトは自分の経験値がプラスされた事を確認し、笑みを溢した。
「やっぱり私の方が強くて早いわね」
「えぇ。雑魚相手なら無双ですね」
「なんか引っかかるけどどうも。それより行き先なんだけど、弥生に決めてもらったらいいんじゃない?」
「え? どうして私が?」
ウトは百合音の皮肉を受け流し、弥生に話を振る。
動揺した様子で彼女は分かれ道の先を交互に指差し、二人の表情を伺っていた。
「えっと……少し待っててください」
少し悩んだ後、弥生は普段戦闘で使っている槍を出現させた。
突然の行動にウトは目を見開き、距離をとるも弥生が穂先を地面に向けているのを確認し、何かを理解したような顔をする。
「私にも決めがたいのでこれで決めることにします!」
額に汗を浮かべ、弥生は声を大きくして宣言する。声に驚いた小動物が逃げ、草むらが揺れる。
二人に見守られる中、彼女はそのまま手を放し、槍は重力に従って道の片方へ倒れた。
乾いた音が鳴り、倒れた先の道を見ながらウトが微笑む。
「ほぅらね。弥生の槍も私の見方だし、これは決まりね」
「仕方ないです。弥生、これは槍が倒れた方向に行くという意味ですよね?」
百合音が弥生に問いかけた。彼女はいつもと変わらない表情で真っすぐ弥生を見つめている。
彼女の返答次第では百合音は、あの時ウトにしたように弥生を杖で殴るだろう。
そんな事を思いながらも、彼女は正直に返事をするしかなかった。
「まぁ、そうですけど……あの、怒ってます?」
「いいえ。それより早く行きましょう。貴女が決めたのなら僕は付いて行きますので」
付いて行くと言いつつも百合音は先に槍の倒れた道。ウトが最初に提案した方の道へ歩いて行ってしまった。
先を歩く小さな背中を眺め、呆けていた弥生の背中が後ろから数度叩かれた。
「杖持ってるやつを先に行かせる気? 私達のパーティでの役割は?」
弥生が振り向くとウトが小さく諭すように呟き、直後、百合音に追いつこうと走っていた。
「待ちなさいよ! 私を置いて行く気!?」
「あっ! 待って私も」
元気に叫びながら走る少女に釣られて、弥生も一緒に走って百合音に追いつき、三人は肩を並べて森の中を歩いていた。
「ねぇちょっと暗くないですか?」
「だいぶ奥の方に来ましたからね」
最初に足を踏み入れた時よりも辺りは暗く、足元の草の背丈も高くなってきている。
足を踏み入れた頃に聞こえていた鳥の声は無く、草木が風で揺れることも無い。
そして何より暗いという事は視界が悪く、自然と足取りも重くなってきていた。
「この程度で見辛くなっちゃうわけ? だらしないわね」
「見辛くなるのは当たり前です。こんなに暗くては……そうでした。吸血鬼でしたね」
ウトが手を腰に当て、胸を張って百合音を見下ろしていた。
種族によって能力に差が出るのは当然だが、このゲームでは視覚や聴覚等の感覚にも補正が入る。
人間の場合は現実の感覚と大差無いが、吸血鬼等のレアな種族になるとその差は大きく、暗闇でも良く見えるらしい。
そんな種族特権を利用し、人を馬鹿にしていた彼女だが、弥生の方を振り返って何か心配になったらしい。彼女は自分のアイテム覧を漁り始め、何かを可視化させた。
「これはね、トーチって名前のアイテムで使うと......」
可視化させたトーチはウトの手の上で光を放ち、彼女の自慢げな顔と周囲を照らしてみせた。
その様子を見ていた百合音は軽くため息をつき、手のひらを上に向けて二人の顔を交互に見る。
「はぁ、その程度ですか? その程度の明かりでしたら僕でも......」
今度は百合音の手のひらの上から強い光が発生し、辺り一面を昼間のような明るさで満たした。大きく成長した木々、入り口周辺のものより背の高い足元の雑草すら鮮明に見える状態だ。弥生のぽかんとした表情や、百合音の口元のみ緩んだ笑顔、そしてウトの何か文句を言いたそうな顔まではっきりと照らし出していた。
「凄い。でもどうして最初からやらなかったんですか?」
「これは消費が大きいので、あまり使いたくなかったのです」
「はいはい、魔力の温存をしたかっただけね。ところでアレは何?」
森の奥を指差し、ウトが頭上に疑問符を浮かべる。
残る二人が同じように向くが、シルエットすら映らない。
「気を引きたいだけの嘘はやめてください」
「嘘じゃないって! ほら、音もするし......」
「音......?」
手や羽をばたつかせ、必死になっているウトを尻目に、二人は奥から周辺の音に集中する。
木々の揺れる音。風音の中に何かの足音と硬いものがぶつかり合う音が混じっていた。それらは確かに森の奥から聞こえてくるようだ。
「悔しいですが、確かに聞こえますね」
「ほぉら。言ったでしょ」
「奥で誰かが戦っている? ウトはここから見えるの?」
「よくは見えないけどそれなりに。結構大きいわね。ここのボスかしら」
「とりあえず行ってみましょう」
百合音はウトに先を越されるのが嫌だったのか、その小さな体で森の奥まで一目散に駆けて行ってしまった。




