30話 チュートリアルはちゃんと見ないと後悔する
「アレって……普通のNPC防具屋ですよね?」
百合音が指差した先の建物は看板に大きく防具屋とだけかかれており、あまり人気の無さそうな店に見える。
冗談だと思った弥生は返す言葉に迷っていたようだったが、できるだけ選んで搾り出すように口にした。
「はい。その通りです。まぁ今の装備よりマシなものはお手ごろ価格で買えますが、今回は装備できるレベルギリギリの物を買います」
「えーっと……自分で強化しろって事ですか?」
「半分当たりです」
面倒臭そうに言う弥生を尻目に、百合音は胸を張って得意げに答える。そよ風に揺れるフードの隙間からは、機嫌良さそうに耳が動いているのが見えた。
「さっき市場でピンポイントに狙ったものをつけるアイテムは、かなり高かったんじゃないですか? それともランダムで付くものを取って剥がしての繰り返し作業なんて……」
「いいえ、そんな手間の掛かる作業なんて必要ありません。ところで弥生は鍛冶師の生産スキルは持っていますか? 武器防具の作成や改造には必要不可欠ですので一応確認を」
「えーっと、そんなものありましたっけ?」
「はぁ……スキルに関するチュートリアルもスキップしたのですか? 話が進まないので今説明します」
悪態をつきながらも本当は説明したかったのだろうか、彼女は嬉しそうな顔をしていた。
本来なら弥生のレベルでは常識のように理解できているはずの事だが、弥生の性格のせいだろうか戦闘系のスキルにしか興味が無かったようで本当に知らなかったらしい。
「いいですか? まずスキルツリーを開いてください。スキル習得画面のスキルを次々と覚えていくための木のようなものがありますよね。その上のタブに生産系ってありませんか?」
「あっ! ありました。開くとー……調理、採掘とか色々あります」
スキルツリーとはスキルを習得する時に開く一覧表のようなものであり、これにポイントを割り振って使えるスキルを増やしていく。
言われた通りに弥生は生産系のメニューをスクロールさせ、鍛冶師の表示を探した。
そして下の方に表示された『生産ポイント』を見つけ、この数だけ割り振れる事を理解した弥生は、鍛冶師のスキルにポイントを振ろうとした。しかしある会話を思い出し、それが弥生の手を止める。
「あの、百合音さん。これは全部自分でやらなければならないんですか?」
「スキル振りや自分で制作する場合、自分でしか操作できませんので」
「それじゃなくて、誰かに作ってもらうとか……ダメですか?」
「別に構いませんが、他人に作ってもらう場合は店を構えている人が良いです。さらにこのゲームの性質上だと素材を相手に譲渡という形になります。それこそ道行く人に適当に声をかけて持ち逃げされたら泣き寝入りしかありません」
呆れ顔で弥生の顔を覗き、心配そうな表情を見せた後に百合音は再びメニューを開いて何かを入力し始めた。
「ちなみに鍛冶屋のNPCショップは存在しませんので、それこそお店を探すところから始まります。大体が素材集めの都合でレベルの高いダンジョン近くに土地を買って経営してたりしますので、この近くですとあまり無い気がします」
難しい顔で説明しながら百合音は、地図を弥生にも見えるように表示させ、点々としたバツ印を指差す。
現在地だと思われる青い点の付いた場所の近くにはバツ印が存在せず、遠くの山や大きく広がった森の奥に多く付いていた。
「このバツ印が僕の知っている鍛冶屋の場所です。見ての通り遠くの高レベルエリアにばかり存在しています。一番低くてもレベル50は必要な場所です。なので頼むなら……」
「あの、ここは鍛冶屋じゃないんですか?」
何かに気付いたのか、百合音の話を途中で切る勢いで弥生は地図に触れ、自分の行った洞窟と火山の境目に丸を付ける。
「そこは確か自称喫茶店の雑貨屋ですね。ドーピングアイテムが他より安いので昔はたまに使っていました。今は鍛冶屋なんですか?」
「えっと、兼業してるとか言ってました。確か女性の方が喫茶店で夫が鍛冶屋をしてるとかって聞いた気が……」
「その情報が確かなら行ってみる価値はあります。間違っていても火山への道中ですし、本人から今の装備でも十分ときいていますので、情報が間違っていたらそのままレベリングでいいですね?」
地図を消し、半信半疑な百合音は首を傾げながら確認を取り、今度はゆっくりと歩き出した。
腕を組んだままローブを揺らして歩き、街の出入り口まで行ったところで振り返る。
しかし近くに弥生の姿はなく、なぜか先程の建物の前でずっと立っていた。
「弥生。置いて行きますよ?」
「えっ? あっ、すみません!」
考え事をしていたのか、妙なタイミングで上の空だった弥生は百合音の声で我に返り、小走りで彼女の近くまで来て軽く頭を下げる。
直後、彼女達はNPCに話しかけて喫茶店の近くまでワープさせてもらうが、この喫茶店に頼む事こそが弥生達を大きな問題に巻き込む原因になると、彼女達はまだ知らないのであった。




