2話 決闘申請は計画的に
決闘申請。それはプレイヤーが他のプレイヤーに、バトルの申し込みを行いたい場合に使われるコマンドである。
当然そのようなコマンドを使わなくてもバトルは行える。
奇襲を掛けて傷付ける事も可能だ。だがそんな卑怯な事には当然ペナルティーがある。
それを回避する為のコマンドではあるが、受け取った側が承認ボタンを押さなくては成立しない。
弥生がどうするか悩んでいると、百合音が不思議そうな顔で見上げ、表示されたウィンドウを確認する。
「人気者ですね。横取りでもしました?」
「えっと……そんなはずは……」
空色の短い髪と白いフードを揺らし、淡々とした口調で話す百合音とは対照的に、 慌てた口調で返しつつも今までの行動を思い返す弥生。
しばらく承認ボタンを押さずに考えていると、少し離れた位置にある大木の陰から怒鳴るような高い声が聞こえた。
「おっそーーーーいっ!!」
2人が声の聞こえた方を向くと、金の髪を両サイドでくくり、ゴスロリ風の黒いドレスを着た少女が居た。身長は百合音よりは大きく、弥生よりは小さい。彼女は怒りの感情を隠そうともしない表情で歩き出し、弥生の目の前で立ち止まる。
「決闘を申し込まれてんのに何ぼーっと突っ立てるの!?」
息を荒げ、大きな声で言い放つ。
弥生はそれに驚きながらも、赤いウィンドウに書かれた名前と少女の名前を照らし合わせる。どちらにも『ウト』と表示されていた。
「そう言われても……なんで私と?」
「それは……その……そう! 強そうだったから! そういう事よ」
ウトは少し悩んだ後に言い切り、自慢げな顔を見せる。
「さっきの戦い、見事だったわね。こう一撃で蛇を蹴散らして、すぐに経験値にしちゃって」
彼女は目を瞑り、弥生の戦闘を思い出しながら話すも途中で何かを思い出し、胸の前で手を叩いて軽い音を鳴らした。
「あぁそうそう。私だけ相手の情報を知ってるんじゃ不公平よね。自己紹介してあげる。私の名前はウト、種族は吸血鬼。使用武器はバトルが始まってからのお楽しみ。質問は?」
再び自慢げな表情をし、自信満々に手を広げて質問を待つウト。
彼女を珍しいものを見るような目で見つめる百合音と、その隣には真剣に質問を考える弥生。
しばらくそのまま沈黙が続いたが、弥生が悩んだ末に口を開いた。
「あの、吸血鬼って何?」
「はぁ? あんたそんな事も知らないの? じゃあそれも戦ってみてからのお楽しみね」
ウトは数歩後ろに下がり、再び決闘申請を送った。
結局何も教えて貰えてないなぁと思いながら、弥生はウィンドウと百合音を交互に見る。百合音がゆっくりと首を縦に振るのを確認すると、弥生は仕方なく承認ボタンを押した。
直後、「決闘の承認を確認しました」とメッセージログが流れ、カウントダウンが始まる。
いつものように短槍を握り直す弥生に対し、ウトは武器を握ってすらいない。カウントはもう既に始まっている。
なぜ出さないのか。弥生が考える暇もなくカウントアップし、決闘は始まってしまった。
「手早く決めてあげる」
合図の音と共にウトは全力で走り出し、弥生の目の前で大きく振りかぶり、武器を瞬間的に実体化させながら振り抜いた。
振り抜かれた大きな剣は、ギリギリで後ろに下がった弥生には届かず、空を切る。その隙を狙い、ウトの肩に短槍を振るがあまり大きなダメージは出なかったようで、ゲージはほとんど削れていない。大きく再び後ろに下がり、彼女はウトの様子を伺った。
「思ってたより早いのね。あれを避けるなんて」
ウトは大きな赤黒い剣を担ぐように持ちながら話す。
武器は通常、実体化させなければ扱う事ができない。しかし剣系の武器には抜刀術というカテゴリがあり、中にはあらかじめアイテム状態の武器をセットし、攻撃しながら実体化させるスキル『抜刀』もある。
彼女はこのスキルを使う事で、初撃の隙を減らしている。
「そう褒められても……だって剣は見えてたし……」
「はぁ? そんな訳ないでしょ? 避けられたのだって今回初めてだし」
少し焦った表情でウトが捲し立てながら剣を振り下ろす。
しかし弥生が言うことは嘘ではなく本当の事だ。
抜刀のスキルは発生を早めるだけで、発生してからの攻撃スピードは変わらない。振りかぶりながら生成される剣が見えているのなら、リーチが分かるので避けることも受ける事も可能だ。
大剣は攻撃スピードが遅い上に攻撃後の隙が大きい。軌道が分かるなら避けるのも難しくはない。
実際に弥生はウトの猛攻を避け、細かく反撃をしていた。
「くっ……なんで当たらないのよ……」
ウトが剣を縦に横に振り続け、弥生はそれを避けながら細かく反撃をする。その行動が繰り返され、ウトの体力ゲージが半分を切った時の事だ。重い金属音が鳴り響き、弥生の短槍が吹き飛ばされた。
「痛っ……! 槍がっ!」
「ふふ、やっと当たったわね」
偶然ではあるが、弥生の武器にウトの大剣が僅かに当たり、その衝撃が手に伝わった瞬間、槍を握る手を緩めてしまったらしい。
それに気を取られ、衝撃で体制を崩し、その場に倒れこんでしまった弥生の前に、ウトは両手で剣を構えた。
「勝負、あったわね」




