28話 過剰な小生意気
「お待たせしました! 百合音さん!」
ポニーテールを揺らし、赤髪の彼女は百合音に後ろから声をかける。
集中していたのか急に話しかけられた彼女は肩を跳ねさせ、勢いよく振り返るも見知った顔が見えたので平静を取り戻した。
「声をかける時は正面からにしてください。しかもこんな状況で……」
「すみません。結構待たせてたら悪いかなーって思いまして」
申し訳なさそうな言葉とは裏腹に、軽い口調で弥生は謝罪する。
頭をかきながら笑顔で誤魔化そうとする弥生と不機嫌な口調の百合音だが、この険悪に見えるようで実は暖かいやりとりは彼女達の日常でもある。
「そこまで待っていないので許します。それに……」
言葉を途中で区切り、ベンチから立ち上がってメニューを開いて何かを入力する。
直後、弥生の視界にパーティ申請用のメッセージが間を空けずに表示された。
「今日は珍しいものが見れる予定ですので。ちなみに試し切りは済ませましたか?」
「新しい槍の話ですよね? はい! 敵に当たった時にバババンッ! ってなる感じで結構強そうでした!」
自慢気に説明する彼女だが、百合音にはいまいち伝わっていないようで、小首を傾げられてしまっていた。
「直撃時に爆発でもするのですか? それならそれで火力アップに繋がりますが、爆風で視界が遮られるとなると……」
「爆発はしませんけど振ったらガガガってなって刺したらザザザって感じです!」
「はぁ……分かりました。もう実際の戦闘場面を後ろから見させてもらいます。ですので洞窟……の前に」
言葉を途中で区切り、弥生の頭を見上げては下へと視線を動かし、足元まで全身をゆっくりと眺める。
その後、彼女は何かを考え始め、指を折って数えてからメニュー画面を開き、持ち物を確認し始めた。
目の前で謎の行動を取られた弥生は、困惑しながらもどこか期待した眼差しで彼女を見つめている。
百合音がこういう行動を取るときは大概何か世話を焼くときだ。それを分かっている彼女は、この行動が良い方向に転ぶように祈りながら待っているようだった。
しばらくして百合音が操作する手を止め、一つの提案をした。
「弥生、防具を買いに行きましょう。もちろん僕の物ではなく、弥生の物を」
「え? 急にどうしたんですか?」
何かもらえると思っていた弥生は思いがけない提案に面を食らっていた。腕を少し上げたり腰に手を当てたりして自分の防具を確認し、どこか変な場所はないか確認していると、百合音が溜め息をついてから口を挟んだ。
「どうしたもこうしたもありません。それ、かなり低レベルから使ってますよね? 見た目だけ引き継いでいるならまだしも、そのままならステータス的に辛いはずです」
「えっと……そんなレベルも上がってないですしまだ大丈夫な気が……」
「レベルは? 正直に答えてください」
弥生が言い終わるのを待たず、百合音は真っ直ぐに彼女の瞳を見上げて覗き込んだ。気圧されるように無意識に仰け反り、弥生は自分のステータスを確認する。
「30くらいです。多分」
「はぁ……そんな装備で大丈夫なんですか? ユーザーが居なさ過ぎて潰れる間際のゲームじゃないんですから、逆にそれでラビがよく許しましたね。いえ、基礎を覚えさせるためにわざとですか?」
「そういえばそんな事言ってたような言ってないような……」
「とにかく、装備を調えなければ前衛なんて怖くて任せられません。早く行きます……よ?」
言い終わるよりも早く、百合音は弥生の手を握っていつものように振り回そうとしたその時だった。
逆に繋いだ手を引かれ、力を入れて踏み出そうとした足のせいでその場に転んでしまった。
僅かに土埃が立ち、受け身も取れない状態で地面に激突した彼女は、立ち上がりながら不機嫌を隠そうともせず弥生を睨みつける。
「この阿呆。どうしてそんな事するんですか? か弱い乙女ですよ? 少しは気を使って引っ張られた……り?」
立ち上がり、現実での癖で服の埃を払いながら百合音が立ち上がってみると、訝しげな表情をした弥生がそこに居た。
「私、ちょっとは強くなってますしなんならこのままでもいけると思うんです。さっきだって百合音さんに手を引かれても微動だにしませんでしたし。それに実は先輩を待ってる間にもうあの洞窟攻略してきたんですよ?」
自慢げに話す彼女のポニーテールは、身体の動きが動きが伝わってまるで興奮を表すかのように揺れていた。言われた内のどれかが気に入らなかったのだろう。
その姿を百合音は目を細めて面倒くさそうに見ていたが、洞窟を攻略したという言葉が少し気になったようで、腕を組んで少し考え込んでしまう。
「……弥生。攻略した時は一人で、ですか?」
「途中までは一人でしたが、その間も全部攻撃は避けれてましたし防御面は大丈夫だと思います」
弥生の妙な自信はレベルによる腕力の強さもあるが、この世界に慣れたのか自身のスピードが大きく上がったおかげなのか、敵の攻撃を大体避けられていた事に起因していたようだ。
その自信に対し、彼女はローブの裾を持ち上げてひらひらと挑発するようにはためかせた。
「それなら防御を重視したものより、こういうものはどうですか?」




