24話 彼女からは逃れられない
一日ぶりに私はこの世界に足を踏み入れる。
初めて来たときと変わらず、心地よい風と綺麗な風景が私を迎えてくれた。
昨日も思ったがここに居る間だけは、現実で感じていた息苦しさを感じないで済む。
多分私が 楚良ではなく 弥生であるおかげだ。
私は腕を大きく広げながら伸びをし、自分の頬を軽く二、三度叩いた後にゆっくりと歩き出す。
こうして体が思うように動くかを確認してから私は、何かメッセージが届いていないかメニューを開いてチェックを始める。
「先輩からの連絡は無し、と」
僅かに期待しながら開いたが、やはり何も来ていない。
喫茶店での彼女の口ぶりからすると、また家の事情で忙しいのだろう。
今度こそ一人でレベル上げの時間になりそうだ。
私はメニューからフレンドリストを選択し、改めて先輩がログインしていないか探してみるが、『百合音』の状態は予想通りログアウトになっている。
寂しいような嬉しいような気持ちになりつつメニューを閉じようとしたが、別の名前がログイン表示になっているのが目に入った。
表示だけ見たときはは師匠かと思っていたが、名前の部分には『ウト』と書かれていた。
「師匠も先輩も居ないのにどうしてウトだけ?」
予想外の事につい疑問が口から零れるが、偶然だろうと納得し、少し考えてみることにした。
騒がしい人ではあるが悪い人ではない。しばらく一緒にいたのでそれくらいは分かるが、今誘うのは何か迷惑になりそうなので止めておこう。そう思いつつも私は無意識に彼女の名前を選択し、細かいメニューを開いてしまっていた。
上から『チャット』『パーティ申請』等の表示が並ぶ中、最後に表示された『居場所の表示』が目に留まる。
そう言えば彼女はあの時、用事が出来たと言ってパーティを抜けたが、その用事はもう済んだのだろうか。私は『居場所の表示』を選択しながら考えていたが、思いがけない場所に彼女は居た。
「あの先じゃん……」
居場所にはスヴァルト火山と表示されていた。スヴァルト火山は昨日師匠と一緒に冒険した洞窟を抜けた先にそびえ立つ大きな山だ。少なくともマップにはそう書かれている。
一人でレベル上げをするなら次はあそこになるだろうと、喫茶店からの帰り道で考えていたが、ある意味好都合だろう。
「向こうで会ったらあいさつしとかなきゃ」
呟きながら私はメニューを閉じ、村に存在するワープクリスタルと呼ばれる装置を使って洞窟の中央にある安全地帯に移動した。移動の仕様で一瞬だけブラックアウトした視界が開けると、そこは薄暗く少し狭い空間だ。
昨日の事をふと思い出し、私は思わず振り返る。あの時は常に師匠が一緒に居てくれたが、今は居ない。
本当に一人で冒険しているのだという実感が湧き、寂しさと嬉しさが同時に押し寄せる。
それから新しい武器を手に入れた事を思い出し、とりあえず取り出しみようと思ったその時だった。
「あれは確か……」
ゴブリン型のモンスターが視界に入り、試し切りしてみたい欲に駆られたのだ。
ステータスを見るより一度使ってみたほうが使い勝手は分かりやすいだろう。何より先輩が来る前に使いこなせていれば自慢できる。
まだ見ぬ武器で無双する自分を夢想しつつ、私はその武器を取り出して握ってみた。
大まかな見た目は今まで使っていた短槍とさほど変わらないが、穂先が少し重い。握った瞬間、以前のものに比べると腕が僅かに沈むような感覚がした程だ。
重いと感じた部分をよくよく見てみると、ひし形の飾りのようなものが、穂先の付け根から重力に従って垂れていた。飾りは等間隔で四つ、穂先を中心にして囲むように付けられていた。どこかダサいようでかっこいい不思議なデザインだが、とりあえず今は試し切りだ。
「恨みは無いけど思いっきり……そーれっ!」
感心しながら私は走り、モンスター目掛けて槍を思い切り真横に振り抜いた。
いつもの風を切る音の他に妙な打撃音が混ざり、ダメージが多数表示される。飾りのおかげで複数回当たる槍なのだろうか。
先程の攻撃で怯んだ敵に今度は槍を突き刺し、もう一度ダメージを確認するとやはりいくつかの表示が現れる。そして同時にゴブリンは悲鳴を上げながら壁に激突し、地に伏してから消えていった。
あれほど苦戦した敵をあっさり倒せるようになったのは、レベルが上がったからなのか武器が強くなったからなのか。
どちらにせよ強くなれたのなら嬉しいことだろう。
こうして試し切りと言う名の短い戦闘を終えた私は、火山へ洞窟を抜けて進もうと歩み出す。
火山の敵はまた手強いのだろうか。そんな事を考えていると、急に白い手が私の肩に乗せられ、後ろから声をかけられた。
「あの、昨日洞窟の奥に居た方ですよね?」




