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ワールドハウル  作者: シンク
3章 それは曖昧だけど確かなもの
24/31

23話 人間関係は曖昧

 大きなため息を一つ吐き、私はベッドに寝転んだ。


「やっぱり自分の部屋が一番だよね」


 わざと声を出し、再確認しながら私は枕元に置かれたVRゲーム専用のデバイスに手を伸ばす。

 フルフェイスヘルメットの様なそのデバイスをお腹の上に置き、私は天井を眺めて全身の力を抜いた。

 沈む体の感触が心地よく、眠ってしまいそうになるがドアをノックする音で目が覚める。


「楚良、どうして部活に来なかったの?」


 返事をする間もなくドアが開かれる。

 私は慌てて上半身を起こしながら毛布を肩まで掛けた。

 そして無遠慮に部屋に入ってきたセミロングの女性は、ベッドの隣に置いてある椅子に腰かけた。


「まだそんなに遅くないのに寝てるなんて、体調でも悪いの?」

「えっと、まぁ、うん」


 しどろもどろになりながらも答える私の顔を、半信半疑な顔で彼女は見つめる。

 この人は私の実姉だが、私と違って実力もあれば真面目ないわゆる模範的な人物だ。

 昨日今日と続けて部活に行かなかった私を問い詰めに来たのだろう。


「はぁ……それならそうと先に言ってよね。私が先生に怒られちゃった」

「えっ、ごめん」


 返事を聞くなり姉は呆れ顔で机に手をつき、立ち上がる。

 先にシャワーでも浴びてきたのか、髪が揺れるたびにほんのり甘い香りがした。

 そういえばお風呂にまだ入ってない事を思い出し、ゲームの後でもいいかなと考えていると、再び嫌な言葉が耳に入る。


「明日はちゃんと来ること。いいね?」


 彼女は私に指をさし、そう言い残すとまた返事も聞かずに部屋を出て行ってしまった。

 自分勝手だと思いながらも、私も人の事は言えない。先に迷惑をかけたのは自分なのだから。

 私は文句を飲み込み、パソコンの電源ボタンに手を伸ばした。


「これをこう、だったかな」


 気を紛らわせるために独り言を呟きながらゲームを起動させ、冒険に出ようとしたがその前にやるべきことができてしまった。

 ゲームのアップデートだ。すっかり忘れていたが、これには結構時間がかかるらしい。

 開始さえすれば待っているだけでいいのだが、それすら辛い。

 早く向こうの世界に行き、先程の出来事を忘れようと思っていたがそれすら出来なくなってしまった。


「お姉ちゃん、昔は優しかったのにな……」


 言ってみたものの、今の彼女が変わるわけでもなく、考えるだけで気分が沈んでしまう。他の事を考える事にしよう。

 そう言えば喫茶店でのあの二人は何だったのだろうか。

 あの二人にあの質問をした後の事を思い出し、私は顔が自然と温かくなっていくのを感じた。






「なんと答えていいかなー……」


 頼奈さんは私の質問に困った表情でそう返した。

 その様子を見ていた金留さんは彼女から手を放し、自分の髪を触りながら口を開く。


「貴女が見た通り、感じた通りの関係です。ね、頼奈?」

「お前がそれで良いならなんも文句はねーけどよ」


 金留が代わりに答え、満面の笑みをこちらに向ける。

 言葉とは裏腹に、頼奈さんは不満気に彼女とは逆の方を向いていた。

 そして視線だけを私に向け、今度は少し恥ずかしそうに質問を投げかける。


「お前にはどう見えてるんだよ? 俺たちが」

「それは、その……」


 質問の意図が読み辛く、言葉に詰まってしまう。

 ここも慎重に言葉を選ばなければ後が大変だ。

 初対面でしかも相手は年上である。この時間にここに居るという事は部活には入っていない。

 学校での立場が脅かされる危険性は無きにしも非ず、というところだ。

 先輩への影響も考えてここは無難に答えるしかない。


「えっと……とても、仲が良さそうに、見えます」


 震えた声。しかし私は言い切った。悪い事は言っていないはず。

 それなのに私の返事を聞いた二人は黙ってしまった。

 緊張のあまり握った手が汗ばむのを感じ、余計に焦ってしまいそうになる。


「その通り。私達はとても仲の良い、お友達同士です」


 数秒の沈黙を誤魔化すように、金留さんは自分の胸に手を当てながら口を開いた。

 そして彼女は掌を上に向け、私に手を伸ばしながら話を続けた。


「貴女も先程の小さな方とそのような関係ですか?」

「そう聞かれましても、先輩と私はただの先輩後輩の関係といいますか……」


 言葉の選び方が悪かったのだろうか。

 まさか同じような質問で返されると思っていなかった私は、考える間もなく思いついたままを口に出してしまっていた。

 こちらの情報を探っている。そう感じられるような質問であったが、今言った事が全てだ。

 何も嘘はついていない。

 そんな事を考えていると、彼女は真っすぐ私の目を見て微笑んだ。






 けたたましいアラーム音が響く。

 何事かと飛び起きてみると、モニターにはアップデート終了の表示がされていた。

 どうやら追憶に夢中なっている間にアップデートは無事終わったようだ。

 まだ思い返している最中だったが、ゲームができるとなればそちらを優先したい。

 それに反省するだけなら向こうでもできる。先輩から連絡がこないところ見るに、今回は正真正銘の一人なのだから。

 一度深呼吸をし、気合いを入れてデバイスを被る。

 そして再び横になり、私は弥生となって向こうの世界に降り立った。

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