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ワールドハウル  作者: シンク
3章 それは曖昧だけど確かなもの
23/31

22話 どんな場所でもマナーは大切です

「おかえり。他のお友達も待っているわよ」


 厨房の方から女性が顔を覗かせ、喜んだ声を入り口の方に向けた。


「友達? 今日連れてくるって言ってたのはこいつだけだぜ?」


 入り口に立っていた女性の片方、肌が日焼けで褐色気味になっている女性が荒い口調で返した。

 彼女の髪は楚良(わたし)より明るい茶色だが、耳が隠れない程のショートな髪型や直前の言動もあり、セーラー服を着ていなければ男性と思われても仕方ない見た目をしている。

 対して隣の女性は肌が透き通るように白く、腰まで届きそうな程長く、手入れのされた綺麗な黒髪を持つ上品そうな女性だ。


「あら。それじゃあ勘違いしちゃったかもしれないわね。ついさっき頼奈らいなちゃんと同じ制服の子が来たから奥の方に案内しちゃった」

「ちゃん付けで呼ぶな。それとその間違って案内したやつってのは……」


 入り口に立ったままで二人組は辺りを見渡し、私達の席を見つけたと思われる時だった。目があっただけにも関わらず、色白の女性は目を見開き、驚いた表情を見せる。

 私達はただ時間潰しに来ただけなのだが、何かしてしまったのだろうか。

 座っている先輩を見てみると、気怠そうな表情でただ入り口の二人を見ているだけだった。

 その視線の先、頼奈と呼ばれた彼女は私達の顔を見て小首を傾げ、しばらくすると歩いて来て私達の隣席に腰掛けた。


「後輩連れてお茶会か? 陰キャちゃん」

「失礼な方ですね。構ってちゃんですか?」


 話しかけてきた時は笑顔だったその表情が歪む。

 先輩は彼女を強く睨みつけ、感情を隠さずにぶつけている。

 一触即発な空気だが、ここは私がなんとかしなければならない。

 あの世界で覚えた強気をここで使うべきだ。そう思って大きく息を吸い込み、立ち上がろうとしたその時だった。


「ストップ。私の頼奈が迷惑をかけてしまいすみませんでした」


 頼奈さんと一緒にいた色白の少女が二人の間に手を出し、視界を遮りながら頼奈さんを嗜める。


「ごめんごめん。悪気はなくて……で、どこが気に入らなかったんだ?」


 頼奈さんは再び笑顔で先輩に尋ねるも、彼女はすっかり拗ねた表情で横を向いてしまっていた。

 埒があかないと思ったのか、頼奈さんは先輩の顔に手を伸ばしながら迫り始める。

 しかし、その行動が気に入らなかったのだろうか、上品そうに見えた彼女が声を上げた。


「頼奈! いい加減にしてください!」

「ったく。今のはこいつが悪いだろ? だんまり決め込みやがって」

「それでも限度があります。全く、いつもこうなんですから……」


 色白の女性が頼奈さんの肩を掴み、引き剥がそうとした瞬間、どこからか音楽が響いた。

 少し暗めで駆け足な曲調。それは先輩の胸の辺りから鳴っていた。

 皆が硬直した後、先輩は顎に添えられた頼奈さんの手を軽く()ね除け、胸ポケットからスマホを取り出して画面を確認してから耳に当てた。


「はい、桃香とうかです」


 どうやら先程の音楽は着信音だったようで、先輩は電話に出ながら立ち上がった。


「はい。え……今からですか?」


 横目で私達を見ながら彼女は話し続ける。

 こういう場所での電話は基本的にマナー違反だが画面を見た時、彼女は慌てた表情をしていた。

 きっとすぐに出なければならない相手だったのだろう。

 そんな事を考えていると、彼女はそのまま急いで外へ出て行き、数秒後に私のスマホが鳴った。

 取り出して見てみると、先輩から『急な用事ができた』とメッセージが届いており、私はこの異様な雰囲気の空間に取り残されてしまった。


「お前も大変なんだな」


 いつの間にか隣に座り直していた頼奈さんが、私のスマホ画面を覗きながら呟く。

 驚いた私は勢いよく横を向き、頼奈さんと目が合う。すると彼女はニコッと笑い、私の肩に手を回して抱き寄せた。そして……


「お前、ワールドハウルやってたよな?」


 彼女はそっと私の耳に口を近付け、囁いた。

 私は呆気に取られ、どう返事して良いか分からずにただただ慌てていると、向かいの方に座る彼女が助け船を出してくれた。


「頼奈。あまり他人をからかってはいけません。まだ自己紹介もしていないと言うのにそれは失礼が過ぎます」

「はいはい。悪かったよ。俺のお嬢様」


 頼奈さんは肩に回した手を解き、今度は彼女の隣に座りながら謝った。

 また微妙に勘違いされた様子だったが、今回のは間違ってくれて良かったとも思う。

 お嬢様と呼ばれた彼女はまんざらでも無いと分かる表情を見せた後、一つ咳払いをしてから再び口を開いた。


「自己紹介がまだでしたね。私は金留(かなどめ) 流美(るみ)。こちらはここのオーナーの娘、白雪(しらゆき) 頼奈と申します」

「ご紹介預かりました頼奈です。なんてな。一応さっきのやつと同学年だからお前の先輩だ」


 頼奈さんはそう言い、胸の青いスカーフを手で見せつけるように揺らす。

 色白の彼女、もとい金留さんは溜息を吐き、頼奈さんの手を押さえつけるように上から握って煽るのを止めさせた。


「えっと、弥生 楚良です。あの……」


 軽く自己紹介をしようと思ったのだが、気の利いた言葉が何一つ出てこず、私は言葉を詰まらせてしまった。

 自分の趣味を語ろうか。それも良いがそのせいで嫌われてしまっては困る。

 ならば適当な質問を投げかけるしかない。

 窓も開いていないのに風を感じるのは、緊張しているせいだろうか。

 ともかく相手をよく見て質問を探さなければならない。

 

 そう考えてよくよく見ていると、金留さんの手が未だに頼奈さんと重なっているのが見え、私は不思議とじっと見つめてしまった。


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