18話 強気
目から雫が溢れる。
抱えた少年は私を庇って死んだ師匠だ。
自分がわがままを言わなければ、こうはならなかったかもしれない。
私は強気でいてはいけないのだろうか。
浮かぶ自問に答える間も無く、後ろから大きな足音が聞こえる。
まだ戦闘は続いていた。けれども人を抱えたままでは何もできない。
私は心の中で師匠に謝り、その場に置いて逃げるようにゴーレムから距離をとった。
このまま間隔を取り続ければ、攻撃されることはない。ならば逃げ続ければ良い。
私には師匠のように攻撃する手段もなければ攻撃を弾いたりする方法もない。何かが起こるまで待つ以外手段はあるのだろうか。
無様ではあるが、強気に出て死ぬよりはマシだ。
追いつかれそうになっては走り、それを数回繰り返した後、私はある事に気が付いた。
「これじゃあ、何も変わらない……?」
立ち止まり、無意識に言葉を零す。
しかし強気に立ち回った結果が今の状況だ。
考えなしに攻撃しようものなら二の前も良いところ。そんな事をして収穫がなければ、身代わりになってくれた師匠に顔向けできない。
短い間だったが、師匠にはたくさんの事を教わった。
そういえば師匠ならこの場合、どう戦うのだろうか。
師匠との戦闘を思い出し、私は強気で戦う本当の意味が分かった気がした。思い返せば師匠はその小さな体に関わらず、いつだって本当の意味で強気だったではないか。
「師匠、今まで私の行動は付け焼き刃の蛮勇でした。そして今やっと……」
言葉をあえて途中で止め、私はゴーレムに向き直る。
地響きと共に追いついた敵は、再び腕を一度後ろに引く。
さっきまでの愚直な自分なら、スキルを使って落とそうとするだろう。
よくよく考えてみれば、それはリスクの高すぎる行動だ。例えやるとしても真正面から受ける必要はない。
師匠の動きを参考にし、敵の動き始めに合わせて私は真横に跳んだ。追尾してくる攻撃でないならこれで避けられる。
近くを拳が通り過ぎ、地面を抉って勢いを失う。
隙だらけの腕を斬りつけるも、ダメージは雀の涙程度だ。見た目通り防御力が高いせいだろう。
私は一度後ろに大きく跳び、敵から離れてその全身を視界に収めた。改めて見るとかなり大きく見える。
一軒家程の背丈。私の身長以上ある拳。そして黒い全身の中央、胸部には赤い宝石が確認できる。そこを中心に広がる魔法陣は、師匠が捨て身で発動したものだ。彼は最期、宝石に何かしてくれと言っていた。
ただ私に今できることは、限られている。だとすればやる事はこれしかない。
「今度はきちんと当てる。師匠の仇は私が!」
覚悟を確かにする為、言葉を敵にぶつけるように宣言する。
反響する声が聞こえなくなる前に、私はもう一度走り出した。
そして跳び上がり、伸びきった敵の腕に着地する。
宝石を一直線に狙える事を確認し、私は槍を構えた。
「これで、どうだ!」
本当の強気とは、然るべきタイミングで迷わず行動出来る事。
私はこの絶好のチャンスを逃さない。迷っている暇はない。
しっかりと狙いを定め、先端に赤いエフェクトを発生させる。
足に力を込め、力強くもブレないようにしっかりと握りしめてスキル『突進』を発動させた。
風を切り、躊躇いのない槍は宝石に真っ直ぐ向かう。しかし狙いが甘かったのだろう。僅かにそれてしまい、硬い体に弾かれて宝石には届かない。
「ぐっ……まだまだ!」
僅かなダメージの表示が消えない内に、私は空中で無理やり体を捻り、がむしゃらに槍を振り回した。
直後、宝石は大きな爆発を伴って新たに二度ダメージを表示させた。苦し紛れの薙ぎ払いが当たったのかもしれない。
一度目は本当に小さな数字、しかし二度目は文字通り桁が倍以上違う。
恐らく二度目の表示は師匠の置き土産だろうが、まさかこれ程の威力だとは思っていなかった。
爆風に巻き込まれた私の体は宙を舞う。それでもなんとか空中で体勢を整え、壊れていない床に着地できた。
「勝ったのかな……?」
独り言を零し、緊張の糸が切れたせいでその場に仰向けに倒れてしまう。
土煙も起きないこの広い洞窟の中、私は静かに横たわっていた。
ファンファーレが聞こえ、ログにレベルアップとドロップアイテムの表示がされる。
どうやら槍系の武器がドロップしたようだが、それよりも先に確認しなければならない事があった。
私は首だけ動かし、師匠の亡骸を見つめる。
「師匠。私、やりましたよ」
言葉を投げかける。聞こえているかも分からないが、言わなければならない気がした。
返事はない。それでもじっと見ていると、それを遮るように目の前に大きく文字が表示された。
『移動完了10秒前』から始まり、徐々に数字は減っていく。
森でのボス戦では戦闘後に移動なんてなかった。
焦燥に駆られながらログに目をやると表示が増えている。見た瞬間は何のことだか分からなかったが、数秒見つめているとやっと理解できた。
『シークレットイベントに参加ありがとうございました。戦闘が終了したため、近くのセーフエリアに転送します』
書かれている文字通り、どうやらここから出られるらしい。
新しく手に入った武器の性能も気になるが、街に帰ったらまずは師匠を生き返らせる方法を探そう。
そう決意して私は瞼を閉じた。




