12話 訓練から慢心
「意外となんとかなるものだね」
薄暗い洞窟内に彼女の声が僅かに反響する。周りはラビさんの魔法によって明るくなっているが、遠くはあまり見えない。近くに転がっているのは私が今倒したコウモリ型のモンスターのみだ。
どうしてこんな状況になのか。
それは私があの後ラビさんを追いかけて洞窟に入り、少し進むと急にモンスターが現れたのでやむなく戦闘になった。
しかし彼女は戦闘に加わることなく、私一人で戦ってみたが、辛勝なのは言うまでもない。
「レベリングはギリギリできそうだね。はいこれ」
彼女はアイテムを取り出し、私に向けてそれを差し出す。体力回復用のアイテムらしい。とりあえずそれを受け取り、自分に使ってみる。先程まで赤く自己主張していた体力が、戦闘前の青色の状態まで一気に回復する。
「ありがとうございます。あの、ちゃんとできてましたか?」
「ちょっと危なかったけど、ある程度避けられているし攻撃もできている。もう少しレベルが上がれば楽に倒せるね」
微笑みながらそう言い、彼女は先に歩き出した。後ろにぴたりと付くように私も続き、ラビさんの背中を見ながら洞窟内を進んでいった。洞窟内は似たような風景が続き、少し退屈だと思えた矢先、彼女が目の前で急に足を止めた。
「んっ! 急に止まったら危ないじゃないですか」
背中にぶつかりこそしなかったが、彼女の大きな黒い尻尾が私の頬をはたく。
ダメージこそ発生しないが、体感的には少し痛い。当たらない位置まで少し下がると、彼女が振り向いて鋭い視線を向ける。
「武器を構えて教えたことを思い出せ。敵が近い」
言葉と同時にラビさんが大きく後方へ下がる。何かあったときにこの動きをするのが彼女の癖なのだろうな、と考えていると、敵が姿を表す。
棍棒を手に持ち、全身が土のように茶色いの人型モンスター『ゴブリン』の姿が見えた。先程戦ったモンスターとは違うが、入り口でラビさんが倒したモンスターの中に居たので初めて見る敵ではない。
いつも通り槍を取り出し、攻撃の姿勢をとっていると、思いがけない言葉が飛んできた。
「弥生。今回最初は避けることに専念しようか。もちろん攻撃は無しだけど武器は持ったままで」
「えっ!? あの、それはどうし――」
「喋ってないで前」
急に出された指示に戸惑い、思わず振り返って問いかけようとしたタイミングで敵に襲われた。
すんでの所で前を向き、掲げた棍棒が髪を掠る。慌てて攻撃に移ろうとするも、彼女の言葉を思い出して攻撃をやめ、槍を地面に刺してバランスをとる。
空振りしたゴブリンは、体勢を立て直してからもう一度攻撃を繰りだす。軌道すら同じように見えたので、当たりそうになる前に避ける。
そうして再びよろけた敵を見ていると、今のタイミングなら絶対に攻撃を当てることができると思える程隙だらけだ。そのせいで私が無意識に攻撃に移った次の瞬間、ゴブリンは体を大きく回転させ、棍棒を振り回し始めた。槍が弾かれ、握っていた手が痺れるのを感じる。
「ゴブリン系は攻撃を避けられると一定の確率で広範囲技を使う。これで覚えた?」
少し遠くからラビさんの声が聞こえた。槍を持ち替え、痺れを振り払うように手を振ると、再びあの棍棒が視界に入る。
「覚えたら次は攻撃を食らわないように反撃してみようか。完璧なタイミングで」
脅すような低い声。できなかったら何をされるか、想像したくもないくらいの意味を持つ言葉だった。すでに的はあと数歩の間合いまで来てしまっている。
勢いよく振られた棍棒に対し、無理やり体を捻り、敵の攻撃が空を切った後に私は攻撃の体勢に移ろうとした。しかし先程の棍棒を振り回す技を見てしまったせいで体がうまく動いてくれない。すっかり弱気になってしまった自分の腕に力を込め、強引に敵に向けて槍を振った。
直後、ゴブリンは再び回転を始めようとするが、そのまま吹っ飛んでいった。
棍棒を振り回すために一瞬だけ背を向けた隙に、私の槍が当たったのだ。
壁に勢いよく叩きつけられ、地面に伏した敵には追撃をかけなければならない。HPバーがなくなるまで油断してはいけないと、メールにも書いてあった気がする。
「これで! 決めます! 『地を割る一太刀』!」
新しく覚えたスキルを使い、ゴブリンに大きなダメージを与え、鈍い悲鳴が木霊する。このスキルは槍の先を天に向け、一度力を溜めてから振り下ろす技だ。
私が今使える中で一番強い技だが、隙も大きく、今のような場面でしか使えない。
攻撃を放つ時の音や衝撃は大きく、ウトの大剣を思い出させる豪快な技なので、少し気に入っていたりする。
今の攻撃で倒せたゴブリンの姿が消え、代わりに経験値が表示されてレベルが上がった。
「ラビさん! レベルが上が……え?」
戦闘が終わり、槍をしまいながらラビさんの元へ駆け寄ろうとした時、なぜか彼女の近くに魔導書が浮いていた。
魔導師なのは察していたが、問題は彼女の掌がこちらに向いている事。魔導師にとっての武器を展開していた事だ。
「あ、あの! ラビさん? 私、完璧じゃないかもしれませんけど、勝ちましたよ!?」
しかし、その必死な弁明も彼女には届かず、短い詠唱と共に火球が放たれた。




