10話 訓練から思考
私の目の前に表示されたもの。
それは森の中で一度だけ見たもの。
百合音さんの前で蛇を蹴散らした直後に現れたあの表示が、目の前に再び現れた。
パーティ申請が送られてくるだろうと思っていたのにこれは予想外だ。なんとあの『決闘申請』の文字が表示されている。
二、三度見直すがやはり見間違えではない。冷や汗が頬を伝う感覚が妙にリアルだ。
「あの、手伝ってもらえるんですよね?」
「そうだよ。だから実力の確認。三分の時間制限内で、どれだけ私に攻撃を当てる事ができるかが見たいから。もちろん私からの攻撃は無し。質問が無ければ了承を押して」
楽しそうに説明を終えた彼女の顔を見ながら、私は頭の中で説明された事を復唱して確認する。
三分間の内に攻撃を当てろと言うが、あんな強力な魔法が使える相手に戦える気がしない。負けるのは正直に言うと怖い。
だけれども攻撃をしてこないなら大丈夫かもしれない。それにただの実力の確認だ。ここで退いたら今までの自分と同じじゃないか。
そうして私は胸に手を当て、深く深呼吸をする。
鼓動が落ち着いた頃に覚悟を決め、震える指先で了承ボタンを押した。
「それじゃあ始めようか。ここからは実力試験だ」
彼女は開始の合図と共にバックステップを踏み、大きく距離をとると同時にローブを羽織る。あの赤い瞳が再び私を睨みつけ、その一挙手一投足を逃すまいとしていた。
後退りを堪え、槍の先端を彼女に向けて構える。標的は動かない。本当に攻撃してこない事を確認し、私は地面を強く蹴った。
「行きます! 一閃!」
槍の届きそうな距離まで一気に進み、素早く逆袈裟斬りを放つスキル『一閃』を発動させ攻撃する。しかし攻撃を読まれていたのだろう。再びバックステップを踏まれ、避けられてしまった。
「このっ! これならっ!!」
続けて前に進み、がむしゃらに槍を前に突き出す。しかし着地の直後に垂直跳びされ、避けられてしまう。まだだと自分に言い聞かせ、停止してしまった槍をそのまま横に振ろうとするが、体勢が崩れているせいかうまく力が入らない。隙を見せたが最後、彼女に急接近を許してしまい、頭が真っ白になる。
そしてその戦闘慣れしたスムーズ過ぎる動きに恐怖を感じ、目を瞑ってしまった。
「一回死んだね」
攻撃の代わりに言葉が襲いかかる。耳元で囁かれ、私はそれをかき消すように槍を振る。大振りな攻撃は空を切り、彼女には掠りすらしない。再び自覚できるほどの大きな隙を見せてしまったが、彼女は接近してくることはなく、その場で静かに立っているだけだった。
静かではあるが、殺気ともいえる強い意思を感じるその佇まいは、戦闘狂と言っても差し支えの無いほどのものだ。
「攻撃が雑すぎる。状況を考えて槍を振らないと当たらない。少し落ち着いたら?」
「えっ? あ、はい! でもあの……」
指摘をされ、無意識に構えを解いてしまう。それでも時間は気になり、自分でもどうしていいか分からなくなっていた。
「攻撃する前、途中、後。どんな場合でも戦闘中は相手をよく観察すること。そして癖を利用して攻撃を当てる」
淡々と説明するが、彼女の視線が私から外れることはなかった。それどころかまるで威嚇しているようにも感じ取れる程、視線は鋭い。
「分かってはいますが、その……」
頭で分かっていても実行できない。そう言い訳しようと目を逸らした時の事だった。もともとそう離れていなかった間合いが一瞬の内に詰められ、彼女の顔が目の前に現れる。
再び槍を横薙ぎに振るも、同じようにバックステップで避けられてしまって意味を失くす。
「二回目。近接職同士の殴り合いだったら致命打を食らっている」
追撃を放ち続けるもその都度避けられてしまい、攻撃が全く当たらない。動きをよく見ろと言われても避けられていることしかわからない。森でのウトもこんな気持ちだったのだろうか。
「攻撃が単調になっている。焦っている証拠だ。冷静になれない?」
ラビさんの言葉が胸を抉る。冷静にならなくては勝てない。冷静に、落ち着いていこう。戦いながらでも考えることはできる。忠告を思い出せば答えは出る。
相手をよく見ることの他に何か言っていたような気もする。癖を利用する。とも言っていた。
記憶を辿っていき、戦闘の始めから覚えている限りのイメージを脳内で再生する。槍を振っても距離を取られ、突き出せば横に避けられる。距離をとっての睨み合いはレベルのせいか向こうの方が早いから避けたい。彼女が動けない状態を狙えれば楽なのだが、そんなタイミングがあるのだろうか。
集中するために一度深呼吸をし、考え直すとあることに気付けた。
「避けられるなら、それを利用して……」
独り言が漏れてしまったが気にしない。たぶんこれしかない。そう信じて私は槍を軽く振りかぶった。
私が振り始めると同時に彼女はバックステップを始めていたが、私には最初から振り抜く気はない。
「なるほど。そういうことか」
ラビさんは今頃気付いたようだがもう遅い。
そして私は槍を握り直し、精一杯の力を込めてスキル『チャージング』を発動させた。




