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2016年/短編まとめ

空っぽな頭で考えて、空っぽな心で感じ取ってよ

作者: 文崎 美生

クソみたいに空っぽ。

本当、鳥の骨の中の方がまだ身が詰まっているってくらい、スカスカの空っぽ。

可哀想になるくらいだ。


「兄さんは、愛してるなんて言葉一つで落ちそうだよね」


冷凍庫からアイスを二つ出して戻って来た兄さんは、私の言葉に瞬きを二つくれた。

そんなもん二つくれるなら、その手に持ってるアイスをまとめてくれ。


よっこいしょ、と掛け声を付けて反発力のあるソファーから身を起こす。

三人掛けのソファーを私は右半分。

兄さんは左半分。


「えっと、どういうことだ?」


「そのまんまだけど。あ、私こっちね」


ひょい、と迷うことなくハーゲンダッツのいちごを奪う私。

ついでにスプーンも。

兄さんの手に残ったのは抹茶。


「良く分からないんだが」


パカリ、アイスの蓋を開けながら横に座る兄さんを見る。

困ったように眉を下げて笑う兄さんは、酷く甘ったるく優し過ぎるのだ。

この人を手玉に取るのも、転がすのも簡単だろう。


まだまだ硬いアイスを、銀色のスプーンで突っつきながら、うーん、そうだねぇ、と私。

兄さんは兄さんで、アイスを開けることなく私をガン見している。

両手でアイスを握り締めているが、溶けるよ。


「兄さんは空っぽだから。何にもないから。誰かに求められれば、全力で応えようとするから」


「お、おう?」


「どんな愛でも受け入れそう。てか、心中しそう」


口の中に入れたアイスを溶かしながら、舌の上で転がすようにして味わう。

私の言葉を聞きながら、兄さんの首は傾いていく。

死んで成就するものか?なんて、全くもって見当違いな答えまでくれる始末。


別段、頭が悪いとかそんなことはない。

むしろ学校の成績で言うと半分よりも上だったはず。

それがどうして、人間としてこんなにも空っぽでスカスカなのか。


「だ、大丈夫だから」


「何が?」


今日はコンタクトらしく、目が乾くのか瞬きの回数が多い。

指先で軽くコンタクトを調整する様子も見られる。

そんな兄さんは、何を決意したのかアイスを握り締める手に力を入れた。


「可愛い妹だからな」


「何の話してんの、マジで」


私のアイスを一掬いして、そのアホみたいなことを口走る口内に、ずぼり、突っ込む。

むが、とか、むご、とか変な声が聞こえたが知らん。

何を勘違いしているんだろうか、この兄は。


両親は決して私達二人を差別することはなかった。

勿論男女としての区別はあったが、虐待などもなく普通の幼少期を過ごして、今の今に至る。

空っぽの兄さんと、そんな兄さんを見守り忠告しながら、暴言まがいな言葉を吐き捨てる私。

友人には一度だけ、夫を尻に敷く嫁、という表現を受けたがそう見えても仕方ない。

だって、兄さんは危ないから。


「だからさ、今回の彼女も違うよ」


兄さんの手の中からアイスを奪って、蓋を開ける。

ペリペリ、ビニール部分も剥がしてから、スプーンを刺して返す。

手の中に戻ったアイスを眺めて、更に眉を下げる兄さん。

いいから食べなよ、と言えばおずおずとスプーンを握る。


「あんな女、兄さんには似合わないよ」


思い出すのはアイスと同じようなピンク色の頬をした女。

兄さんと同い年の女。

私を見て可愛い妹さんね、と聞き飽きたお世辞を並べた女。


どうせ兄さんの甘さに、優しさに、漬け込んでいるだけなんだから。

そんな兄さんに向けた言葉の刃物を、お高めのアイスと一緒にお腹に流し込む。

ごくん、喉を上下させる私を、不思議そうに眺める兄さんは、やっぱり空っぽだ。

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