闇夜に消えた少女
夏のホラーに提出する為に書きました。ホラーというには怖くないかもしれませんが、興味があったらご一読していただけるとうれしいです。
あの日、彼女は消えた。
俺の名前は相沢駿、男子高校生だ。
学校が終わり、明日から夏休みだとみんな浮かれている。俺は放課後の教室で友達の本田智樹としゃべっていた。
「明日から夏休みだな。お前なんか予定とかあるのか?」
「いや特に。そっちは?」
「いや、ないぜ。まいったよな。彼女の1人でもいればもうちょっと変わるんだろうに。お前彼女作れよ!そんでその子の友達紹介しろ!」
「当てがあればな。」
俺とは違い智樹は髪を薄く茶色に染めている。校則では許されていないが地毛ですと言ってごまかしているらしい。
顔も悪くないのでよく付き合うだの別れただのと噂を聞く。ちなみに今はフリーなんだろう。こっちによくわからない八つ当たりをする。
「あれ。でもそういうお前は気になる子いるんじゃないのか〜?」
智樹がだらしなく緩めたネクタイをくるくると回す。その顔にはにやにや笑いが張り付いていた。
「なんのことだよ?」
「誰って高槻京子だよ。同じ保険委員だろ?」
「ああ・・・。」
高槻京子は同じ保険委員の女子だ。
ただそれだけって話だ。話す内容も
「高槻さん。明日委員会があるから。」
「はい。」
「高槻さん。これ保健室に持っていってくれる?」
「はい。」
と、こういう感じでとても事務的だ。彼女自身のことを聞いた事などない。とてもじゃないがそこまで親密になれる気配もない。
彼女はクラスでも有名な美人だ。だが友達と話しているのを見た事がない。更にミステリアスな雰囲気と相まって、近付き難い。高嶺の花だった。
素っ気ない返事を聞いて智樹は意外そうな顔をする。
「そうか、意外だな。」
「え、そうか。」
「ああ、だって彼女、中学で一緒だった野伏リコそっくりだろ。」
その言葉を聞いて突然、全身に鳥肌が立った。
なぜ、今まで思い出せなかったのだろう。そうだ、野伏リコ・・・あの日、失踪した彼女にそっくりだったのだ。
俺は智樹と別れたあと、図書館にいき新聞を何冊かまとめてもらい、自習室を借りると腰を据えた。新聞をめくりながら当時の事に思いを馳せる。
俺と智樹は中学の時から一緒だった。そこに、野伏リコが加わった理由はあまり定かではない。気づいたらいつの間にか俺たちの輪の中に入っていた。
リコは確かに高槻にそっくりだった。なぜそれを思い出す事が出来なかったのか。あんなに一緒にいたのに・・・。
「ねえ、駿。これからも私たち一緒にいられるよね・・・。」
ある日、リコと一緒に学校から帰っている時、俺はリコにこう尋ねられた。
「一緒にいられるだろ。お前が違う高校に行くなら話は別だけどさ。」
「そういうことじゃくてさ。ほら、その、私が遠い所にいったとしても駿や智樹は私の事覚えてくれるかなって。」
少しうつむき、自分の鞄を後ろ手に持って靴先をみる。
俺はその姿にドキッとした。制服のセーラー服はリコによく似合っていた。
「忘れない。てゆーか忘れたくても忘れられない性格してるっていうか。」
「どうゆう意味よ!」
元気づけようかと思ったが、照れくさくてちょっとからかってしまった。それを聞いてリコは頬を膨らませた。
そうだった俺は確かにリコのことが好きだった。
色白の肌や、風になびく短めに切りそろえられた髪にどきどきしたこともある。
それが彼女にばれていたのかはわからない。
ただ俺は結局、彼女に気持ちを伝える事はなかった。
中学生の妙に意地っ張りな所が素直さに負けてしまったのだろう。
物思いに耽りながらやはり、リコの事を忘れている自分がいる。
「どうしてだ?なんで・・・、そもそも失踪した事実をなぜ思い出せないんだ・・・?」
いくら新聞を見ても何も書かれていない。
でもなんでだ。わずかだが記憶がある。でも頭の中に霧でも出ているかのようにぼんやりとしか思い出せない。
「「・・・いつまでも・・駿・・・わた・・・ありがとう。」」
記憶の中でリコと母親が俺に向かって話している。それを俺はぼんやりと聞いている。
「だめだ・・・。思い出せない。」
図書館を出て家に帰り、ネットで検索をかけてみる。特に情報を得られない。俺はベッドの上にごろりと体を投げ出した。
わからない・・・。彼女が消えてしまう前に何か大切な事があったはずだ。どうしても思い出したい。
リコや智樹との日々をなぞりながら思い出そうとしていたら、そのまま深い眠りに落ちてしまった。
次の日、俺はリコが暮らしていたアパートの前に立っていた。そこには失踪する前から何回か来た事があった。
懐かしい建物だ。遠くからでも見えてくるとあの時の気持ちを思い出す。全体は赤色で二階建て、こじんまりとしている。
近づいていくと、入り口に誰かいる。
「あれは、高槻、京子。」
彼女もこっちに気づいたらしい。
「こんにちは。相沢君。」
静かに鈴のなるような声で語りかけてくる。
私服で青いワンピースに白い薄手のカーディガンを羽織っている。頭には麦わら帽子でその下に黒い豊かな髪の毛が流れている。
改めて見ると、とても白い肌をしており目は狐目だ。智樹の言う通り、リコそっくりだ。
リコは短い髪の毛を夏風になびかせているイメージだが、高槻は涼やかな長い髪の毛を冬の雪にとけていきそうだった。つまり、二人はとても似ているが、性格は四季が一巡りするくらい違っていた。
「高槻はどうしてここに。」
すると、彼女は白くて長い指を目の前の建物に向けた。
「ここ、私の家。」
「え!ここに住んでいるの?」
「うん。」
驚いている俺を尻目に彼女は小首をかしげてこっちを見ている。
「相沢君は?」
疑問を投げかけてくるが正直に答えたらただの不審者になってしまう気がする。でも、うまい言い訳も浮かばない。
「実は昔ここに・・・友達が住んでて、それで懐かしくなってここにやってきたんだ。」
「友達?」
「うん。いや、・・・うん。」
少し歯切れの悪い返事をしてしまった。
「ここに住んでいたんだ。」
高槻は視線を建物に向けた。その目は何時もは感情を感じさせないはずなのに、今日に限ってなぜかうるんでみえた。
そわそわしながら、俺は小さい足のついた机で正座をしていた。なぜか俺は彼女の部屋にあがる事になった。
高槻が他人と積極的に関わろうとしているなんて、正直驚いた。この夏一番の冷や汗をかいたかもしれない。
いや、失礼だがそれほどの出来事だったのだ。
「はい。」
高槻が目の前に透明なグラスを置く。中の液体は麦茶だろうか。氷がカランと涼しい音を立てる。
「高槻さんはここに住んで長いの?」
「ううん、そうでもない。二年前くらいにお母さんと一緒に引っ越してきたの。」
彼女の手元にも麦茶が置かれている。
せっかくなので口を付けると麦の独特な香りがしてのどを潤す。
二年前・・・ちょうど、リコが失踪した時期にかぶる。
「そっか。あのさっき言った友達・・・。野伏リコっていうんだけど、彼女について何か知ってる事はない?」
高槻がちらりとこちらを見て、また目を伏せる。
「それって、ニュースとか新聞でも話題になった事件?」
「うん。」
「・・・詳しくは知らないわ。」
そこで会話が途切れてしまう。
外で蝉がうるさく鳴いている。
冷房の音と相まってなんとも夏らしい雰囲気だ。
しかし、この沈黙には耐えられず俺は席を立った。
「あー、その、なんか家に上がらせてもらってありがとう。その、そろそろ帰るよ。」
「うん。」
高槻は玄関まで送ってくれた。
「相沢君。」
「なに?」
「今日はありがとう。」
「え。」
「それじゃ。」
ドアがすぐにしまってしまい、振り返って高槻の顔を見る事が出来なかった。でも、なんでありがとうって言われたんだ?
俺は何かお礼を言われるような事を言った記憶はない。
いくら考えても仕方ない。俺は夏の暑い日差しにうんざりとしながら、家路につこうとした。
その瞬間、脳裏にとある記憶が浮かび上がる。
そこは神社の境内だ。そこで、俺とリコ、智樹と一緒にしゃべっている。すると、そこに同じ中学のセーラー服を来た高槻がやってくる。
「「やっときた。じゃ、紹介するね!この子は高槻京子。京子ちゃんです!」」
「「は、初めまして」」
「「実は京子ちゃんは前から私たちの事を見ていて友達になりたいと思ってたんだって。だから仲良くしてね。」」
高槻は顔を真っ赤にしている。俺は高槻がリコとよく似ている事に気づいた。
「「そうなんだ。しっかしいいのかね。俺らみたいなバカと一緒になっちゃって、成績落ちちゃうかもよ」」
なぜか自慢げに智樹は語った。
「「落ちてるのはお前だけだろ智樹」」
と俺は呆れる。
「「そうそう、私も全然平気だよ」」
「「え、う、うそだ〜俺だけ!?」」
みんなの笑い声が神社に響いた。
「な、何だこの記憶?俺こんな記憶持っていないぞ。」
近くに木陰があったのでそこに座り込む。ひどく頭が痛む。
「俺の記憶・・・。なんでこんなにちぐはぐなんだ。」
自分の記憶が曖昧で、何を信じていいかわからない。
「智樹に確認するしかない・・・。」
携帯電話で智樹に連絡を入れる。するとすぐに電話に出てくれる。智樹に記憶がこんがらがっている事を伝えると、すぐに会おうという話になった。
近所によく三人で行ったカフェがある。待ち合わせをそこに決めた。
カフェは冷房が効いていた。席に着くと、馴染みのウェイトレスさんが、メニューを持ってくる。
「あら、久しぶりね。」
「こんにちわ。」
「えーと何時ものを頼む?。」
「はい。それでお願いします。」
ずいぶん久しぶりにやってきたのに覚えてくれているなんて、少し感激した。注文を待っている間、カランコロンとドアが開く音がする。
智樹だった。急いでやってきたのだろう。少し息切れをしている。こちらに気づくと心配そうな顔をしながら、やってくる。
「駿。大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫だ。」
少し微笑んでみせる。それを見て安心したようだ。
「記憶がよみがえったんだって?」
「ああ。」
「てゆうか今まで忘れてたのかよ。」
智樹があきれた顔をする。それを言われたらぐうの音もでないので頭を少し掻いておどけてみせる。
「なんでだろうな、ともかく俺と智樹とリコ、それに記憶の中に高槻が居たよ。」
「高槻が?」
「ああ、なんでかわからない。中学一緒じゃなかったよな。」
「違うな。一緒だったら、俺は絶対覚えてる。」
智樹が変に胸を張る。
「でも、なぜか記憶のなかでは一緒に遊んでいるんだ。すごく奇妙な感覚だ。」
「本当に遊んでたのか。どこで遊んでたんだ?」
「あの学校の近くにある神社だよ。」
「あそこか。」
中学校の近くには小さい神社がある。学校の通学路にあり、夏の暑い日は涼むにはもってこいだった。
「よく三人で遊んだよな。」
懐かしそうに智樹は遠い目をする。しかし、三人という言葉にやはり違和感を感じる。
「俺の記憶だと、一緒に高槻とも遊んでいた。」
「いや、やっぱり俺の記憶にはない。」
智樹は目をそらさず断言する。
俺は記憶の再現を求めていた。
「・・・ちょっとその神社に行ってみないか。」
「かまわないぜ。」
智樹はいつの間にか注文を取ったアイスコーヒーをストローで飲み干すと席を立った。
カフェから神社までは近い。坂を一つ上ればすぐだ。
二人で日暮れの太陽の下、坂を上る。
青空は既にかげりを見せており、夕暮れの生暖かい風が二人の間を横切っていった。
正直、隣に居る智樹の話を完全に信じる事は出来なかった。自分のわがままでカフェまで来てくれたのはうれしかったが、自分の記憶と違うと完全に否定されたので、なんだかどれもこれも信じられなくなってきていた。
夕暮れに周りが染まっていき、深い赤と青が周りを支配し始めている。隣を歩いている智樹の顔をしっかりと見極める事が出来ない。
もし隣で泣いたり笑ったりしてもわからない。周りに街灯はあったが、心もとない気がした。
すぐ近くにあると思っていたが、移動してみると結構な距離を感じた。思い出の距離と実際の距離は差が出るものなのだろうか。
神社に到着した頃にはもう真っ暗だった。鈴虫が羽音を出している。周りは雑木林になっている。記憶違いがなければ風で雑木林の葉っぱがさざめくのに、いつのまにか風が消えていた。
階段を上り、真っ赤な鳥居をくぐる。正面には神様を祭る本殿がありその前に賽銭箱が一つぽかんと置いてある。
右手側には手を洗う事が出来る手水舎があり、こんこんと水が湧き出ている。
「祭りの時とか結構にぎわうのに、やっぱり人が居ないと怖いな。」
智樹がぽつりと話す。
「なあ、駿はリコにもう一度出会えるって聞いたらどうする?」
こちらに背を向けたままなのでやはり顔が見えない。なぜか俺の背中に冷たい汗が流れる。
「・・・なんで俺たちの前から消えたのかその理由を聞きたい。」
そして想いを伝えたい。と言葉を続けたかったが、それを飲み込んだ。
「智樹はリコが消えた時の記憶を持っているんだな。」
「ああ。」
「なんでだ。」
「リコの事、忘れる事なんて出来る訳ないじゃん。」
その瞬間全身の鳥肌が立った。鈴虫の音が消えている。
「リコは『あっち』の世界にいっちゃたんだ。もう戻って来れない。」
「でも、みんなで『あっち』に行けば何も怖がる事はない。」
智樹の顔は無表情だ。
「そうすれば『あっち』に行ってしまったリコに会えるんだ。」
「なに?『あっち』ってなんだ。おい、どういう事だ智樹。」
しかし、その返事を聞く前にぐらりとは周りの空間が歪んでいく。智樹はそれを気に留めるでもなく、迷いなく本殿に向かっていき、扉を開く。
扉の向こうには大きな鏡がある。そこには本来、写るはずのものを写していない。その鏡には俺たちが住んでいる街がある。
「ど、どいうことだ。」
俺はうろたえる。それと同時に頭に記憶がフラッシュバックする。
リコがあの鏡の前に立っている。
「「私たちがあっち側に行ってつなぐ場所を閉じないと扉がどんどん大きくなってこっちとあっちが飲み込まれてしまうの」」
鏡の向こうには高槻がいる。
「「あっちにいるもう1人の私、高槻京子はもう1人の私。こっそりこっちに来ていつも遊んでいた。」」
そう言うと彼女は右手を鏡にむける高槻も右手を鏡に向ける。そしてこっちに振り向く。
「「ずっと、駿や智樹と一緒に居られると思っていた。でももうこれで最後だね。いつまでも元気で居てね。駿ずっとあなたの事忘れないから!」」
フラッシュバックはまだまだ続く。まるでせき止められていた川の水が一気に下流に注ぎ込むかのように、俺は立っている事が出来ずその場でへたり込んでしまった。
「やっぱり、記憶が鍵だったんだな。あの時から何度かここに来て本殿の扉を開けて確かめていたんだ。なぜかちらりと鏡の景色が揺らいでいたときがあった。何かしらのショックがあればきっと『あっち』に行く事が出来る。そう思ってたんだ。」
「俺はずっとリコの事が好きだった。でも、夕闇に消えていくリコに俺は何も想いを告げる事が出来なかったんだ。・・・もう一度会いたい。あってちゃんとリコに想いを告げたい。」
その時智樹が歓喜の声を漏らす。
「ああ、リコ。」
智樹が鏡に向かって右手を差し出す。鏡の向こうにリコの姿でも見つけたのだろうか。触れるか触れないかというとき
「だめぇ!」
境内の入り口から声が聞こえる。激しい頭痛に耐えながらそちらに目を向けると、高槻京子がそこに立っていた。
「『こっち』と『あっち』をつなげたらだめ・・・!」
見た事もない形相で高槻は智樹の事を見ている。
「お願い、智樹君。」
「高槻・・・。」
うつろな瞳で智樹は高槻を見る。
「つながったら扉が二つの世界を飲み込んでしまう。同じ物質が一つの世界に存在したら、対消滅を起こして二つの世界がきえてしまう。」
その時、またフラッシュバックの波がやってくる。俺は高槻とリコの三人と一緒にいる。
「「だから私たちは本当はこの世界の住人じゃないのよ。」」
「「何いってるんだよ。二人とも。」」
「「ううん。本当の事なのよ。私たちはいずれ入れ替わって扉を閉じる役目を担っているの。」」
「「だから、その時が来たら、寂しいけどお別れなの。」」
「「でも高槻があっち側から来たら、リコも向こうに居なくちゃだめじゃないか。そ、それなのにこっち側に二人が居るなんて。」」
「「うん。でもここに居る京子ちゃんは」」
そう言うとリコは高槻の手に触れようとする。しかし、その手はすり抜けてしまう。
「「さわれないの。ここには魂だけの存在としているから。」」
「「た、たましい。」」
俺はすっかり腰を驚かしてしまう。いつも遊んでいた女友達が実は幽霊だったなんて・・・。
「「そもそも、なんで京子ちゃんがそうまでしてここに居るか、駿わかってる?」」
「「わわわ、リコちゃんだめ!」」
「「え?」」
慌てる高槻をリコは押しとどめる。
「「京子ちゃんはね。駿の事が・・・」」
ふっと我に帰ると痛む頭を抑えながら走って智樹にタックルをしかける。智樹は驚いて尻餅をつく。
「や、やめろ、智樹。高槻の言う通りだ。これ以上扉をあけるな・・!」
「離せよ!」
智樹が俺を振りほどこうと必死にもがく。その時、鏡が真っ黒になる。鏡自体がブラックホールのようだ。
「智樹君!相沢君!」
高槻が叫ぶ。
夕闇が世界全体を包んでいく。
気がつくとそこは真っ黒の世界だった。周りには何もない。匂いも空気もいや・・・自分の体もない。手足を自分で確認する事が出来ない。
(ここは・・・)
俺の隣には智樹だろうか。うっすらと形を保っている。
ふと前に目をやるとリコと高槻が出現する。
(ごめんなさいリコ、私、世界を守れなかった。)
(ううん。しょうがないよ。駿から自分の記憶すべてを消さなきゃいけないなんてつらいもんね・・・。)
(リ、リコ!)
目の前に再会を切望していた相手が居るのに自分の体は全く前に進まない。
(でも、一つだけ方法があるよ。)
(うん。わかってる、時間を巻き戻すんだね。)
(そして私たちが出会わないようにする、そうすれば・・・対消滅は防げる。)
(リコ!高槻!)
リコはすべてを悟ったかのように
(ごめんなさい駿。あなたの想いが、私をつなぎ止め、京子の想いが貴方をつなぎ止めてしまった。でも、それは不幸なんかじゃないって私は思うわ。)
(誰かに愛されて、また誰かを愛する事が出来たんだものきっと幸福に違いないわ。きっと・・・)
その時、夕闇が迫ってくる。
(リコ、高槻、智樹だって!俺は忘れない。忘れないよ!)
声が出ないが心の中で大きく叫ぶ。その想いが通じたかどうか定かではない。ただ、二人が微笑んで見えた・・・。
夏休みが終わり、俺はまた高校生活に戻っていく。今年の夏も特に変わった事もなかった。ただ、夏の青春を涼しいクーラーで過ごしてしまったと言う謎の罪悪感が俺を襲っていた。
「よう、駿。新学期から冴えない顔してんな。」
後ろからうざったい声が聞こえる。
「お前の顔見たらこうなるって。智樹。」
本田智樹だ。髪の毛をうすい茶髪にしており、先生に見咎められても「これは地毛です。」と突っぱねる智樹だ。
「ちぇ。へへ、でもいいし。おれなんと夏休み中に彼女で来ちゃったんだよね〜。」
悪くない顔をにやにやと歪ませる。青春謳歌していますという顔だ。なんだかそれを見ていらっとしてしまう。
「はー。それはようござんしたね。」
「ぬははは。お前も早く彼女作れよな。」
どんっと背中をたたかれよろける。
その時正面をあるいている髪の毛の長い女生徒とぶつかってしまう。彼女はバランスを崩して手に持っている荷物を地面に落としてしまう。
「ああ!ご、ごめん!」
俺は急いで彼女の荷物を拾い上げる。彼女はいいのと小声でささやく。
荷物をかき集めて彼女は立ち上がる。そこで初めて顔を見る。
「高槻?」
ぶつかった相手は高槻京子、同じ保険委員で滅多に会話した事がない。長い黒い髪が印象的なミステリアスで高嶺の花だ。
「なに?」
高槻は鋭い目つきで俺をみる。
「あ、いや、な、なんでもない。」
その言葉を聞くや否やくるりときびすを返すとそのまま階段にむかう。
なぜだろう?彼女を見ると、とても懐かしいような悲しいような気分になってくる。訳が分からず涙だけが出てきそうになる。
「高槻!」
その時となりに居た智樹が声をかける。呼び止められて、意外にもびたっと足を止める。
「駿が話があるってよ。」
何勝手なことを言うんだ!と心に思い、そもそも高槻がこっちに来る事はないだろ!と思っていると、高槻はこれまた意外な事にまたこっちに向かってくる。
ただ、表情は暗いままだ。視線を決して俺に向けようとしない。
「じゃ、先に教室いってるわ。」
こっちの心とは真逆に軽い足取りで智樹は去っていく。すれ違うように高槻がこっちに向かってくる。それを見て俺は覚悟を決める。
どこかから今度こそという声が聞こえた気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。最初はもっとホラーホラーしてるものにしようかと思っていたら、予想以上にリコや京子ちゃんがかわいくなってしまいどうもホラーっぽくなくなってしまったような・・・。
ま、まあドッキリさせるだけがホラーじゃないですもんね。
数あるホラー小説の中で一つぐらいしんみり恋愛テーマでホラーをやるのも一興かななんて思ったり。
それではまた来年に会えたらまた会いましょう!それでは貴方にすてきなホラーが起こりますように・・・。