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ノンシ

 着いた途端(とたん)手を離した真梨(まり)の後ろ姿が少し前で、(うつむ)いているようになって、息を上げている。

 ――不気味な忍び笑いまでやり始めた! しかも肩まで(ふる)えてやがる!!

 そして振り返ってきた真梨が、斜め上から(すご)み絶好調の眼光で見下してくる。さらには眉根(まゆね)を寄せ上げられた憤怒(ふんぬ)の顔だ。その切れ長の恐い双眸(そうぼう)の下にはドス黒いクマ。

 完全に(にら)まれている。もうすぐ白目でもむきそうな中で、櫻は頭が真っ白になった。

「忘れてくれないかい? ……無理だよね。忘れさせてやれないかい? もちろんOKだね?」

 そう言って急接近してきたが早いか、右胸の出しゃばっている部分でエンジンをかけられた。

「ィギャイィダッバヴォァアアア!!」(ひざ)からくずおれながら横へぶっ倒れてのたうち回った。

 ……もう死んじゃうよう。

「……す、すまないっ、……やり過ぎだったみたいだね……」

「やりっ過ぎだっ……よっ……(つね)られただけでもヤバいのにっ……」

 そもそもこの拷問(ごうもん)自体がやり過ぎだ、と(おう)は歯を食いしばりながら切実に思った。

 とはいえ、真梨は眉尻(まゆじり)を下げている。少しでも罪悪を感じてくれているようだ。

「……けどま、もう終わったことじゃないか」――なんとフ、と笑ったような顔になった。

「終わらすなあ! こっちは始まったんだよっ。ていうかさっきの顔どこいった!?」

「やかましいね! 今大事な話も思い出したから、聞きたいならさっさと席についたらどうだ」

「えぇ……? 何それぇ……。クソッ、これからもこんなんばっかなんだっ。……聞くけどさ」

「……もうそんなことしないから、それなら構わないんだろ?」

「……ったく……分かったよ」そう言って櫻は、右胸の尋常(じんじょう)ではないバチバチを我慢しながら立ち上がると、テーブルに向かった。そして、先に座っている真梨とは反対側の席に座った。

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