だぁ3
「……やることって、これ以上何する気なの?」
左隣にいる藤谷が焦った風に返事をしたが、片山は、まるで聞こえなかったかのように何も言わずに左手と、拳銃を握る右手を、間違いなく胸の前へ持っていっていた。同時にカキパキ、と金属同士が当たり合うような音が片山の方から鳴り出したが、その音はすぐに止んだ。
片山の両手が下ろされた。その左手首には赤黒い腕時計が装着されている。
と、片山が今度はデニムパンツの右ポケットに右手を突っ込んで、iCPCを取り出した。そしてその拍子にiCPCを開くと、片山は右下へ顔を向けて、操作し始めた。
それはしばらく続いたが、ふと片山が正面へ顔を上げると、扉の至近へ歩み寄った。
そして左手を上げると、腕時計でノックをしたように鳴らした。
――目眩がしたかのように視界がブレた。が、一瞬にして視界が元に戻った時には、広大で重厚な扉の周辺を縁取るように、セメントのような白っぽい何かがこびりついている。
「……何、やってんの……?」と驚いたように言った藤谷の声は、不安そうでもあった。
「独似三次元空間の使い方の応用だー。もう向こう側に用なんかあってたまるかだろ?」
「それはそうだけど……」
「シルキィだってあっちから来るんだ。心配することなんてないだろ?」
片山が櫻の方へ身を翻してきながら、左へ指を差した。櫻はつられて左を見ると、小さな扉が最奥に見える。トンネルの入口までよりも遠い。エレベーターのように見えなくもなかった。
「そもそもシルキィのはじめてのおむかえの方が心配じゃないか」と片山が言った。
「それは……そんなに心配しなくてもいいと思うけど……」
そう言った藤谷はそれ以上喋らなくなった。……まるで諦め(あきら)たようにも感じられる。
と、小さな扉のある方の天井からエレベーターの動く音が鳴りだした。それはすぐに小さな扉へと下りていって消えたから、小さな扉もすぐに開き始――爆音並の固い突破音!
豪快にこじ開けられた。しかも、ドス黒い何かが元気よく足で床を擦りながら、煌く火花を撒き散らして止まった。途端、厳つい顔をキビキビ縦横無尽に動かして、まるで警戒している。
しかしシルキィではない。シャチのような、またはツバメのようだ。ツバメの両翼のような巨大な両翼を、シルキィがするようにフンッ! と後ろへ、V字に反って広げている。そしてその後ろには長い背ビレが後ろへ伸びている。かなり長そうだ。その下のお尻のような装甲を覆う、まさにツバメの尾羽の装甲から、二本の尻尾が伸びている。胴体から伸びる四本足は、まるで猫の足が、シャチの胸ビレのような滑らかな輪郭と触感の装甲に覆われているみたいだ。
と、そのドス黒い何かの向こう側の、小さな扉の方で膨れ上がっている煙の中から、小学生くらいの男の子と女の子も、腕と手で口を覆いながら走ってきていることに、櫻は気づいた。




