3
藤谷に左肩を叩かれたから顔を向けると、前を向いたままの藤谷の口が開いた。
「一応、……もう、高菜が渡したから、話さないといけないんだけど、」と話し始めたことは、高菜から渡された注射器の、ビオナフィラキシーについてだった。
それで櫻は、危機感とともに聞かなければならない衝動に駆られた。真剣に話に耳を傾ける。
ビオナフィラキシーという、蜂の毒に似た即死の毒が体に回ると、イグズィスティンクスがより一層引き出されるから、生命の危機の時専用のものなのだが、これで無敵だというように思わず安心すると、死んでしまうこと。なぜなら人間は、恐らく、最も感じやすい生物だから、無条件で何としても生き延びようとする生存本能には及ばなくても、思わず安心した気持ちも強力だと言うこと。だからその、安心した気持ちが、生存本能を弱めることで、毒を打ち消せなくなって、即死してしまうこと。――櫻はそれら全てをきちんと聞いた。
ただ、強烈すぎる悪寒に襲われた。そして、初めての練磨の後に藤谷から教えられたことも、その時の恐怖も思い出された。――武器化したS.I.X.はまさに、頭蓋骨に覆われた脳で、無改造の腕脳以上の性能の外付機脳なのだ。それの武器化の際にどこからともなく現れる物質。その全ては、イグズィスティンクスの物質化で再現化された、使用者の心なのだ。ただ、その物質のおかげで、イグズィスティンクスを発現できる。――だから油断をするとその気持ちに応えられて弱体化してしまう。ビオナフィラキシー使用中の時は、油断した時点で死ぬのだ。
だから恐ろしいのだが、そんな中、広大で重厚な扉の前に着いたことに気づいて足を止めた。
そして左の壁には、押し加減が硬そうな出っ張ったボタンがある。片山がそこに向かって、左の握り拳で裏拳のように押すと、車が電柱に衝突したかのような轟音が、鼓膜をぶん殴ってきた。しかもその轟音は鳴りやまない。そうして扉は悠然と横に開いていく。
しばらくして入れそうなほど開いた時、片山から、入るよう促されたので櫻は藤谷と薄暗い中に入ると、少し進んだところで歩みを止めた。最奥の暗闇の形が見える。
まるで山道にあるトンネルのようだ。工事や搬入の時に用いるトンネルのようにも見える。
背後で片山も中に入った、その靴音を聞いてから間もなく、車が電柱に衝突したかのような轟音が再び響き出した。櫻はびっくりして振り向くと、半分開いている扉が閉まっていく。
しばらくすると、完全に閉まった。
と、閉まる扉を念入りに見ているようだった、扉の前にいる片山が、大きなため息を吐いた。
「よし、少し待っててくれー。やることがあるんだぁ」突然片山の、軽々しい感じの声がした。




