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 藤谷(ふじたに)に左肩を叩かれたから顔を向けると、前を向いたままの藤谷の口が開いた。

「一応、……もう、高菜(たかな)が渡したから、話さないといけないんだけど、」と話し始めたことは、高菜から渡された注射器の、ビオナフィラキシーについてだった。

 それで(おう)は、危機感とともに聞かなければならない衝動に()られた。真剣に話に耳を傾ける。

 ビオナフィラキシーという、(ハチ)の毒に似た即死の毒が体に回ると、イグズィスティンクスがより一層引き出されるから、生命(いのち)の危機の時専用のものなのだが、これで無敵だというように思わず安心すると、死んでしまうこと。なぜなら人間は、恐らく、最も感じやすい生物だから、無条件で何としても生き延びようとする生存本能には及ばなくても、思わず安心した気持ちも強力だと言うこと。だからその、安心した気持ち(イグズィスティンクス)が、生存本能(イグズィスティンクス)を弱めることで、毒を打ち消せなくなって、即死してしまうこと。――櫻はそれら全てをきちんと聞いた。

 ただ、強烈すぎる悪寒に(おそ)われた。そして、初めての練磨(れんま)の後に藤谷から教えられたことも、その時の恐怖も思い出された。――武器化した(スィ)()().はまさに、頭蓋骨(ずがいこつ)に覆われた脳で、無改造の腕脳(クローズマイアイズ)以上の性能(スペック)外付機脳(そとづけきのう)なのだ。それの武器化の際にどこからともなく現れる物質。その全ては、イグズィスティンクスの物質化で再現化された、使用者の心なのだ。ただ、その物質(こころ)のおかげで、イグズィスティンクスを発現(はつげん)できる。――だから油断をするとその気持ちに(こた)えられて弱体化してしまう。ビオナフィラキシー使用中の時は、油断した時点で死ぬのだ。

 だから恐ろしいのだが、そんな中、広大(こうだい)で重厚な扉の前に着いたことに気づいて足を止めた。

 そして左の壁には、押し加減が(かた)そうな出っ張ったボタンがある。片山(かたやま)がそこに向かって、左の(にぎ)(こぶし)裏拳(うらけん)のように押すと、車が電柱に衝突(しょうとつ)したかのような轟音(ごうおん)が、鼓膜(こまく)をぶん(なぐ)ってきた。しかもその轟音は鳴りやまない。そうして扉は悠然(ゆうぜん)と横に開いていく。

 しばらくして入れそうなほど開いた時、片山から、入るよう(うなが)されたので櫻は藤谷と薄暗い中に入ると、少し進んだところで歩みを止めた。最奥(さいおう)の暗闇の形が見える。

 まるで山道にあるトンネルのようだ。工事や搬入(はんにゅう)の時に(もち)いるトンネルのようにも見える。

 背後で片山も中に入った、その靴音(くつおと)を聞いてから間もなく、車が電柱に衝突(しょうとつ)したかのような轟音が再び響き出した。櫻はびっくりして振り向くと、半分開いている扉が閉まっていく。

 しばらくすると、完全に閉まった。

 と、閉まる扉を念入りに見ているようだった、扉の前にいる片山が、大きなため息を()いた。

「よし、少し待っててくれー。やることがあるんだぁ」突然片山の、軽々しい感じの声がした。

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