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 (おう)は右を見ると、高菜(たかな)が近づいてくる。その高菜の両手首に黒い腕輪のようなものがあった。

「た、高菜……?」

 しかしぶすっとした顔で無言の高菜が、背後に回ったと思えば、両腕で腰を()められた。

「えっ、高菜が持ち上げんの!?」

()めるなっ。いくぞ!」そして返答を待ってくれなかった。背後からけたたましく、重低音(じゅうていおん)が割れたかのような固い噴射音(ふんしゃおん)が、――蒼白い後押し(ディフブースト)の噴射音が鳴り出した。

 上昇している。右上の方へ(のぼ)っていく。

 少しすると櫻は、やっと光の中に、アンチリファードの拠点(きょてん)の一階に、戻れたのだが(まぶ)しい。思わず目を細めたが、すぐに慣れたから周りがよく見える。

 しかし、考えられない。とんでもないことになっている。この行き止まりの通路からすぐにぶつかる、突き当たりのあった場所から先が、だだっ広いだけの空間になっている。

 櫻は頭が真っ白になった。すぐに床に置かれて、周りから藤谷(ふじたに)たち五人と、初対面の一人の男がやってきて、(はりつけ)(ほど)かれている時も、ぼんやりと、夢の中にいるように現実感がなかった。

 そしてついに磔から脱した時、信じられなくて広大な空間の前まで駆け寄った。

 まさに、全ての壁や、室内にある全てのもの、何もかもを粉々にして空間の(すみ)に押しやった後だった。その、押しやられた諸々(もろもろ)の山脈を後ろにして横たわっている、子どもたちもいて、その全員の目が見開かれたままになっている。しかも全身で(から)まり合うようにごちゃ混ぜだ。子どもたちまでも邪魔なガラクタ扱いにされて、退()かされたかのようにしか見えない。

 しかも小刻みに(ふる)えている。それは不規則で、危なっかしくガクガクと(ひど)くなったりもする。

 永遠に終わらないような勢いで、そうし続けている。

 さらに、その周りには、割れたガラスの破片のような、金属の破片たちが散らばっている。

 漠然(ばくぜん)と嫌だった。何だかまるで、バラバラになった死体を実際に見ているようで嫌だった。

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