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33

 (おう)はゆっくりと目を開けていくのだが、藤谷(ふじたに)のほのかに甘い女の子らしい匂いを感じた。

 いつの間に飛びつかれて抱き()められた藤谷の胸に、左手の指を(しず)み込ませていた。

 濃厚なクリィムを包み込む(やわ)らかい膜に、指を(しず)み込ませているような独特の柔らかさ。

 ――何なんだこれは!?

 ハッと我に返るや(いな)や藤谷は消えたし、仰向(あおむ)けで床に倒れていた。

 機械の声が『ミホマベ』と言ったような妙な音がした。同時に目眩(めまい)がしたかのように視界が激しくブレると、色んな蛍光色の模様がグネグネ動く、サイケデリックな空間に変わっていた。

 意識にフィルターがかかっているようで頭が頼りない。鳥肌が立つほどの危機感だけは尋常(じんじょう)ではない。おかしい気が――いやおかしいんだ。ここはルニ・オーソナーじゃないか。再現化された本心の中じゃないか。確かに、藤谷のことだけを、考えようとした。

 ――だとしても本・心・が・こ・ん・な・わ・け・な・い・だ・ろッ!!

「ぃぃいやあああああああああああああああ!!」(たま)らなくなってむちゃくちゃに叫びながら両手で頭を(はさ)み込んだ。両足をバッタンバッタンさせながら大急ぎで腹筋をしてしまう。

 信じられないっ! 藤谷のことを考えて、真っ先に出たのがあれだなんて信じられないっ!

 思わず頭を使ってのブリッジもしながら、()じ切らんとするように全身を捻じってしまう。

 (もだ)えて悶えてのた打ち回ってしまう。身が(よじ)れる思いとはまさに今だ! 本当に最悪だ!! ホンットにいい加減にし――いきなり顔面に(たき)が落ちてきた。

「おぼるぉぼごぼぼおろおるぉ!?」しかし突然、不意に流し切ったかのように滝が(おさ)まった。

 ただ、変なところに入ったから()き込んでしまう。櫻は(のど)を痛めながらもうつ()せになろうと身を返した。鼻の奥が激しく痛いから余計に泣けてくる。顔面が強烈にビシビシ痛い。

 うつ伏せになっても咳き込みながら、一瞬でも忘れたからこうなったんだ、と反省した。

 そして、ここは再現化された本心だ。いい加減にしろ、と思ったのだからこうなって当然だ。

 しかし少しは頭が冷えた気がする。今度こそ、藤谷のことを冷静に考えられる。

 だから両手で起き上がろうとしている時にふと、目眩がしたかのように視界が激しくブレたと思えば、床が白い氷の床になったから危うく(すべ)って転びそうになった。それでヒヤヒヤしたが、ハッとして顔を上げると、蓮司(れんじ)のハンドガンの蒼白い光(じゅうこう)でやられていく藤谷を見た。

 ――胸の奥底で荒々しく、狂おしいほど激しく息づいている感覚をもう一度(いだ)いて痛感する。

 全身の内側でウズウズしながら外へ出たいと待ち望む感情が(よみがえ)ってくる。

 ――これはもう二度と忘れちゃいけない!

 櫻はそう、腹の底から歯を食いしばるほど思って、眉根(まゆね)を寄せるほど目を閉めた。

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