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櫻はゆっくりと目を開けていくのだが、藤谷のほのかに甘い女の子らしい匂いを感じた。
いつの間に飛びつかれて抱き締められた藤谷の胸に、左手の指を沈み込ませていた。
濃厚なクリィムを包み込む柔らかい膜に、指を沈み込ませているような独特の柔らかさ。
――何なんだこれは!?
ハッと我に返るや否や藤谷は消えたし、仰向けで床に倒れていた。
機械の声が『ミホマベ』と言ったような妙な音がした。同時に目眩がしたかのように視界が激しくブレると、色んな蛍光色の模様がグネグネ動く、サイケデリックな空間に変わっていた。
意識にフィルターがかかっているようで頭が頼りない。鳥肌が立つほどの危機感だけは尋常ではない。おかしい気が――いやおかしいんだ。ここはルニ・オーソナーじゃないか。再現化された本心の中じゃないか。確かに、藤谷のことだけを、考えようとした。
――だとしても本・心・が・こ・ん・な・わ・け・な・い・だ・ろッ!!
「ぃぃいやあああああああああああああああ!!」堪らなくなってむちゃくちゃに叫びながら両手で頭を挟み込んだ。両足をバッタンバッタンさせながら大急ぎで腹筋をしてしまう。
信じられないっ! 藤谷のことを考えて、真っ先に出たのがあれだなんて信じられないっ!
思わず頭を使ってのブリッジもしながら、捻じ切らんとするように全身を捻じってしまう。
悶えて悶えてのた打ち回ってしまう。身が捩れる思いとはまさに今だ! 本当に最悪だ!! ホンットにいい加減にし――いきなり顔面に滝が落ちてきた。
「おぼるぉぼごぼぼおろおるぉ!?」しかし突然、不意に流し切ったかのように滝が治まった。
ただ、変なところに入ったから咳き込んでしまう。櫻は喉を痛めながらもうつ伏せになろうと身を返した。鼻の奥が激しく痛いから余計に泣けてくる。顔面が強烈にビシビシ痛い。
うつ伏せになっても咳き込みながら、一瞬でも忘れたからこうなったんだ、と反省した。
そして、ここは再現化された本心だ。いい加減にしろ、と思ったのだからこうなって当然だ。
しかし少しは頭が冷えた気がする。今度こそ、藤谷のことを冷静に考えられる。
だから両手で起き上がろうとしている時にふと、目眩がしたかのように視界が激しくブレたと思えば、床が白い氷の床になったから危うく滑って転びそうになった。それでヒヤヒヤしたが、ハッとして顔を上げると、蓮司のハンドガンの蒼白い光でやられていく藤谷を見た。
――胸の奥底で荒々しく、狂おしいほど激しく息づいている感覚をもう一度抱いて痛感する。
全身の内側でウズウズしながら外へ出たいと待ち望む感情が蘇ってくる。
――これはもう二度と忘れちゃいけない!
櫻はそう、腹の底から歯を食いしばるほど思って、眉根を寄せるほど目を閉めた。




