表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/221

 自分はここにいる。手足(てあし)顔首(かおくび)、神経の届く全ての箇所(かしょ)に力を入れている感覚が分かる。両腕を動かすと巻きつけられたワイヤーに慣れた感触がさらにキツく感じる。我思うゆえに我あり。しかし心の片隅の不安が(おさ)まらない。この自分の思考は本当に自分が思っていることなのかと。

 ――こんな、普段考えないようなことまで考えて、そしてそれをしつこく何度も繰り返すのを何時間も平気でいられない。それにはもううんざりだ。だから(おう)は小さく(かぶり)を振った。

 時間を無駄にはしていられない。やらなければならないこともある。

 そう考え出した時、初めての練磨の時が、脳裏(のうり)(よみがえ)ってきた。

 ――その時とまた同じことになるかもしれないと不安になる。ひとりでに涙が(あふ)れ出てきた。

 (こわ)くて(たま)らない。辛くて堪らない。もう、こんな辛い思いはしたくない。

 そんな気持ちが今さら蘇ってくる。戦おうと自ら()み出すことが、重すぎて難しい。自分で選んだことだと(わか)っているのにだ。――そんな自分の甘さに嫌気がさす。小さく(かぶり)を振った。

 このままじゃあ決意が(にぶ)る。気持ちに邪魔されてしまう。

 (わか)ってんだろっ。これからはもう、今のような辛さも乗り越えないと生きられないって!

 藤谷だってきっと、こんなような辛くて苦しい気持ちを()み越えているんだぞ!

 初心を忘れるな! 藤谷のことだけを考えろっ!

 そう眉根(まゆね)を寄せながら、櫻は左手首の腕脳(わんのう)に意識を向ける。十秒が経ってもそれをやめない。

 と、左手首に一秒くらいのヴァイブレータを感じた。――第一確認だ。

 再び感じたヴァイブレータは第二確認。

 最終確認のヴァイブレータも感じた。――目眩(めまい)がしたかのように視界が分からなくなった。

 同時に呼吸を忘れたように、空気を吸い込めなくなる。体の内側が後ろへ引きずられていく感覚。両耳の中で膜がパクパクと鳴るような音もパクパク鳴っている。――入空間移動(にゅうかん)の感覚。

 それはすぐに治まったが、あまりの(まぶ)しさに目をきつく閉めた。まぶたの裏が(あか)く見える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ