3+1=3
頭の痛みも胸の苦しみも、辛さも疲れさえも、何もかもが夢のようにさっぱり消えた。
タイムオーバーだからだ。体の内側が前へ引きずられる退空間移動の感覚を抱いたからだ。
櫻は練磨をする前と変わらない平気さを感じる。時間も、練磨を始めた時と変わっていない。
そして今、藤谷たち五人と、前後の出入口に挟まれた食堂に、立っていることに気づいた。
――突然、無意識的に膝からくずおれて、蹲ってしまう。涙が溢れて出てくる。目をきつく閉めて歯を剥き出しにするほど食いしばる。背を丸めて、下を向いた。左手で腹を潰すような勢い握り締める。左肩も右手で握り締める。と、急に吐き出しそうになったから大口を開けて、胃の中を吐こうとするが咳き込むばかりだ。――堪えられない。いくら泣いても泣き足りない。
思い出されたのだ。――イグズィスティンクスの戦いがどういうことか教えてもらうために、藤谷と真梨の再現化された本心に入空間移動をした。櫻の意志がどれほどのものかも、みんなが確認するために、純白の空間に変えられた。が、その床はすぐに、固体のようになった僕の血で汚された。大雨の直後の水たまりのように、桜色の血がいくつか床にへばりついていた。
練磨が始まってすぐに、片山の拳銃による巨大な蒼白い光をみぞおちに食らって、上半身と下半身を分断されたからだ。その上、高菜による大型ナイフの投擲で左肩を分断されたからだ。さらに真梨からの、白い霞を帯びる無数の紫の銃光に襲われる中で、左膝を分断されたからだ。
イグズィスティンクスがなければ死んでいた。それなのに生きていられたのはS.I.X.の自然治癒促進のおかげだった。下半身を上半身につけてくれた片山のおかげだった。
ルールのおかげもあった。僕たち全員が、再現化された本心に思考と体を操作される六つのルール。それは、即死になる攻撃をしてはならない。死傷を受けた者は助けなければならない。重傷者に追い打ちをかけてはならない。跪いた者を無理矢理にでも続けさせなければならない。誰に対しても死ぬ一歩手前まで追い詰めなければならない。如何なる痛みでも意識を失
――そこまで思い出された時、前からぶつかってきた勢いを食らいながら抱き締められた。
頭のところどころで髪の一本一本が掠った。ほのかに甘くて柔らかい、藤谷の香りがする。
櫻は一瞬頭が真っ白になった。痛みも苦しみも、一瞬の間だけだが忘れた。




