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とりあえず櫻は上体を起こした。――滑り台の方から勢いよく服が擦れる音が近づいてくる。
ハッと焦りを抱くや否や櫻は素早く右を見るが、壁だったので、左を見た。奥と左へ行ける通路があったからすかさずそこへ下りた。
その直後に背後で硬い台がガアンと振動する音がすると、ソフトマットに沈み込む音がした。
櫻は後ろへ振り向くと、正面を櫻側にして下を向く藤谷が、膝を閉じて下のソフトマットに着地していた。その時、スカートの方も見えてしまう。少しだけふわりと広がっていて、そのままでは見えなかった太ももが一瞬だけ見えた。
藤谷が顔を上げたことで自ずと櫻に向いたが、普段に見る、自然体の表情が固まった。
少しすると、藤谷の目が、困惑したように左下へ逸らされて、口が少しだけ開かれた。
「……何ともなくて、よかった」
と戸惑うように言いながら藤谷が、――さっきは左に見えた――右への通路を歩いていった。
櫻も、藤谷を目で追いかけた今も、それまでも、まごまごする気持ちに駆られて、ついにはため息まで出てきた。自分が嫌になってくる。そうも思いながら、藤谷の後ろ姿を追いかけた。
そして近くまで達した時、ドタバタ走り回っているらしい音が遠くから聞こえる。そんな中で藤谷の後についていくと、真っすぐへも右へも行ける交差点を丁度通りすぎたところで藤谷が身を翻してきて、左手の人差し指も右を指した。
「あっち行くと食堂なんだけど、ここはもうインプリシットの隠れ家」バタバタ走る音がその、藤谷が右を指している方の食堂から近づいてくる。と、視界の下で二つの動く物体が見えたと思えば左の壁に頭をぶつけたらしい音がした。――それどころではなくて櫻は目を見開いた。
左下から跳ね上がったように宙に浮かんでいる、その謎の物体が、あまりにも信じられない。
見たことのない動物なのだ。いや、生物? 全身がミルクのように白く、その、しっとりと寝ている感じで心地よさそうな体毛が全身を覆っている。黒い両目も白い体毛に囲まれている。枕のようなお尻では、両翼の根元から生えてツバメの尾羽のようになっている羽毛に覆われていて、さらには蝶の羽が縦長になったような、巨大な翼で羽ばたきながら、黒い両目の上からゆったり伸びる櫛のような触覚か何かを、まるでケラケラ揺らしながら左下を見下ろしている。
その見下ろす先から、小さい女の子が、泣くのを堪えて鼻を啜る音がした。
「ちょっと大丈夫?」と同じく左下を見ている藤谷のきょとんとしているような声も聞こえた。
と同時に白い生物がハッ、と我に返ったように触覚をピンと伸ばすが早いか、猛ダッシュで食堂の方へ身を翻しながら一瞬で消えていった。それに比べて顔に受けた風はそんなに激しく感じなかった。しかし、櫻も我に返ったようにやっと左下が気になった。
だから左下を見てみると〝GENKATSUGI〟というロゴのスナップバックキャップの真っ平らなツバが、まるで強引に横へ向けられたようになっている女のちびっこが、藤谷の方へ体を向けて、頭の天辺を両手で押さえながら鼻を鳴らしていた。結構フラフラもしている。
黒髪はセミロングのストレートだった。無地の黒タートルネックに、中が透けて見えそうなほど生地が薄いように見える、灰色キュロットショートパンツ。そして黒のニーハイソックスと同じ色で、金属光沢のような艶のあるロングブーツは、ローヒールらしかった。
そんな女のちびっこが藤谷へ顔を上げた時、顔の輪郭がふっくらしているように見えた。
「あぁ……百合姉だ。よかったぁ……帰ってきたぁ……」しかし声が、やっぱり頭をぶつけたことで泣きそうになりながら呆気に取られている感じだが、それでもとても嬉しそうだった。




