三彡|||///三
「もう戻んないとまずいんじゃない?」
「あっはーあたりだよー藤谷さーん。ではおらは戻りなさいよ」と片山が後ろへ身を翻すと、左前へ歩いていった。少しウザい人だったなと櫻は思ったが、その時に片山がすっ転んだ。
――そういえば藤谷の後ろ姿も、右前へ遠ざかっていく。ハ、として櫻は慌てて追いかけた。
下から上へと光が消えて、暗闇以上の黒に呑まれた。その内に感覚が鈍ってくる。落下しているか分からなくなる。僕自身がここにいるかも分からなくなる。白なのか青紫なのか赤紫なのか分からない、そんな色の光が点々と、ザワザワと蠢いているようにしか見えない。
突然、両足の踵に滑っている感覚を抱く。そしてその感覚は尻にも背中にも抱いた。徐々に徐々に緩やかになっていく滑り台を滑っているみたいだ。その感覚にとても安心させられる。藤谷の言った通りだ。この暗闇を抜けると、インプリシットのセーフハウスへ行けるらしい。
……ただ、この、巨大な廃墟の中の、マンホールで塞がれた穴の中を通るとは思わなかった。
藤谷を慌てて追いかけてから追いついて、藤谷の後ろを歩いていくと、廃墟に辿りついた。それまでは枯木に囲まれた道に入って、高い雑草だらけの、舗装されていない道を歩いたり、その果ての砂利道を通ったりした。その砂利道は造られた道路らしいが、放置されているようでもあった。そこからすぐの廃墟は巨大施設のようだった。トラス構造の外側のコンクリートの太い柱はジャングルジムのようだった。その中へ入る前は、入口前を塞ぐフェンスをどけた。
廃墟の中はかび臭くて、置き去りにされて腐り切った後としか思えないありさまだった。
そんな内部の奥にマンホールがあった。それを藤谷がマンホールを開ける鉄の棒で開けるが早いか「落っこちて」と軽く言ってきた。櫻はぎょっとしたが、藤谷がマンホールを閉める役だから仕方がない。とはいえ落っこちるにはかなりの勇気が必要だった。滑っている今も恐い。
それでも滑りゆく体が右、左へうねっていく。と、視界の中心に小さな光が現れた。そして思った以上に急激に眩しくなっていく。血の気が引く。眩しい。心の準備ができていないのに。
やけくそに目を閉めて、両腕で目を覆った。――反り上がったところを滑ったような感覚。勢いよく放り出された。はぁ!? と胸中で叫びながら両腕で空を振り払ったが、眩しいのが痛くて目を閉めてしまう。しかもソフトマットのような柔らかさに全身の前面が沈み込んだ。
今度は後ろへ傾いていく。ソフトマットから離れて、背中から落下している。が、また同じ柔らかさに沈み込んだ。その時にやっと目を開けられた。真っ先に見えたのは白い天井だった。
そんな視界の上には、反り上がっている滑り台の先端。
そして視界の下では、ソフトマットが壁にくっついている。




