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 ふと、視界が戻った時、幸生(こうき)もいる美喜(みき)たち五人と一緒に、通学路の踏切で待っている中で、電車が通り過ぎた。その時、全身の後ろ姿が見えるほど前にいる美喜のスカートがふわり、と広がった。そしてふんわり浮かんでいる。

 え? と呆然としたが、ハッとすぐに気づいた。これは祐樹(ゆうき)の視点で、祐樹の記憶だ。

 そして恐らく――いつのことかは覚えていないが――帰りの時のことのような気がした。

 途端(とたん)、色んな蛍光色の模様(もよう)がグネグネ動く、サイケデリックな空間に変わった。美喜たちが目の前にいる。その中で、いつの間にか床に倒されていた祐樹が、シューバッグを持つ美喜と藤谷(ふじたに)にゲシゲシと革靴(ローファー)(かかと)()まれている。「恥知らずっ。恥知らずっ!」とも叫ばれていた。

 さらには(かね)の音でも鳴りそうな箇所も「恥知らず」と()まれ続けていた。――そんな祐樹の断末魔(だんまつま)の叫びが消え失せた時、祐樹の両目が青く(ふく)れ上がっていて、半分も開いていなかった。

 それでも祐樹は頑張って立ち上がると、天山層建山脈(あめやま)の屋上にある森林公園を再現化させた。

 ――ドーム状のガラス天井。湿地(しっち)ゾーンをまたぐ低い高架橋(こうかきょう)のような木道(もくどう)の上に立っていた。最奥(さいおう)には、池の中心にある休憩場の丸い屋根。そして四五歩(しごほ)先にある交差点の右にも、ベンチのある休憩所。視界の左右端(さゆうはし)には、内側へ(おお)いかぶさるような重々しい森林の一部分が見える。

 祐樹が交差点へ歩き出した。右奥の木々を目指しているようだ。僕も美喜たちとついていく。

 交差点を右折して、休憩所を横断した。細い川を石の道で渡ると、少し先には高々と(そび)える黒い(さく)が二人分の空間を()けて、向こう側へ通れるようになっている。そこも通って、枯葉と砂利(じゃり)の道に出た。森林公園の外だ――が、目の前には、さらに外側の森林に、入れそうな気配(けはい)

 背の高い様々な雑草の、すぐ奥の森林には、何の舗装(ほそう)もされていない、しかしあたかも道のように見せてくる暗がりの道が奥へ続いている。――そこへ、祐樹が指を差した。

 今はいないが、一時期だけホームレスの住処(すみか)にもなっていたと祐樹の言っていた、森だ。

「えぇ……」と左の美喜が不服そうな声を上げた。

 僕は左を見ようとしたが、前にいる祐樹が先に美喜へ振り返って口を開けた。

「いやホントっ。最初に言った通りだから心配すんなって。ホントに小学生の時に友達と秘密基地を作んのにここを通ったんだよ。この時のために実際通ってきたし、小学生の時に友達と土を掘ったりして、通りやすくしたとこも生き残ってたんだよ」

「いや、……ごめん。分かってるんだけど、いざ実物を目の前にすると、みたいなやつで……」

 苦笑いしてそう言った美喜が、コートのポケットから布手袋を取り出した。藤谷もかな? と美喜の奥の藤谷に焦点を変えると、やっぱり美喜と同じく、布手袋を手にはめ始めていた。

 そして二人は、シューバッグから折り()たた()みシ()ョー()ト長()()を取り出した。

「別に何とかなるって」と祐樹がカラッと言ったのを聞きながら、二人が()()え終わるのを待つ。それから少しして、すぐに準備が完了したから祐樹を先頭のまま、歩き出した。

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