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「そしてこのまま先輩のせいでトラウマが(よみがえ)るってわけなんです。まだ強情張りやがります?」

「できないっ。こいつらにっ……こんなことっ、できるわけがないっ」

 藤谷(ふじたに)(おぼ)れて苦しんでいるような声で叫んだのが聞こえた時、櫻はハッと我に返った。

 しかし直後に、女の子(たれめ)が鼻で笑った。

()りないですね。本当に殺さないって思ってんの? 誰だってさ、きっかけがあれば考えは変わるんですよ。パラダイムシフトってやつです。人間は環境に、異常なほど柔軟(じゅうなん)に適応するから生命体の頂点なんですよ。進化して会得した究極の能力です。ね? 先輩の知る私たちと、今の私たちは違うかもしれないんですよ? 決めつけるのってよくないんじゃないんですか?」

 藤谷が激しく歯を食いしばって、女の子(たれめ)(すさ)まじく(にら)むが、その口から桜色に変わっている血が(あふ)れ出てきている。

 櫻はそれを見た時、ズグン! とまさに心臓が(けず)れたがなおさら分からない。分からない!

 だって撃ったんだぞっ。僕の知っているこいつらと違うかもしれないってのも言ってきた!

 でも藤谷は、アンチリファードのことをよく知っている! 知っているんだ! だから僕にあらかじめ言ってきたんだ! 何度も死んででも(まも)ってくれた! ウソを()く方がおかしい!

 こいつらは口だけだ! 口だけでできっこないんだ! 今だってそうなんだ!

 ――それでも、本当に女の子(こいつ)の言う通りだったら、という不安が消えてくれない。

 本当に殺せるようになったのなら、僕だって生きてられないぞ!

「何黙ってんですかっ。……さっさと言ってくださいっ。……待ってられませんよっ?」

 女の子(たれめ)がそうやって()かしてきたが、声が(ふる)えている。

 まるで冷や汗でもかいているかのようだ。何かを恐れているようにも思える。

 ――やっぱり口だけだよな! という言葉が頭を(よぎ)ったが、それでも不安が消えてくれない。

「言わなくていいっ!! 櫻待ってっ!! 言わないで待ってっ!!」

 そう藤谷から必死に叫ばれたが、分からない。ハラハラと首を振ってしまう。分からない。

 撃つことはできたんだ。このこともできるのかもしれない。

 ――だったら殺すこともできるんじゃないか? 人質にあんなこともするような奴らなんだ。

 ……でも、……いや、……それでも……違うっ。いや! ……いや、……それでも、なのか。

「僕……はっ、……」と思わず声を発していた。頭が真っ白なのに声が出てきた。

「やめて!」と藤谷に叫ばれたが、直後に女の子(たれめ)が一気にジップを下げ始めた。

「分かった! やめてくれ! そっちに行くから! 行くからやめてくれえ!!」

 ――しかしハッと気づいて目を()いた。女の子(たれめ)はジップをほんの少ししか下げていなかった。

 ……藤谷の顔が絶望一色だ。眉根(まゆね)を寄せ上げながら目を剥いて、まさに血の気が引いている。

 しかも周りが、――まさに連中の全員が爆笑している。

 ゾ、と不気味な鳥肌に()まれる。強烈な罪悪感で胸の奥底が重苦しい。涙も(あふ)れ出てきた。

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