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「クスクス、まるで瞬間移動でしょう? もしくは雲隠れの術を解いた的ですか?」
「……ウソでしょ? ……たとえ、イグズィスティンクスでも……、不可能じゃ、ないの?」
「不可能じゃなくて不正解です。独似三次元空間からの退空間移動ですよ。独似三次元空間へ入間する前にあらかじめ決めておきます。退間してくるまでの時間をね。そうすることで結局、どっちが現実になろうが記憶は消えないし、だから結果的に瞬間移動っぽくなるでしょう?」
そう言われた藤谷から歯ぎしりの音がギリリと聞こえた。それが恐ろしい。鳥肌に襲われた。
「悔しんですね。そっかー。その程度の知識しかないのがですか。とても悔しそうですね」
と愉快そうに言っている。――愉快そうに。それにカチンと頭にきた。眉根がきつく寄った。
「その程度なんですよ。それじゃあこうなっちゃいますよ。防ぎようがないもん。それなのに、ホント、大竹櫻に優しくないよね。逆に、潔く渡しておいた方が優しかったんじゃありません?」
「できるわけないでしょ!? それが分からないくせに、優しいかどうかを言われたくないっ」
「黙れよ。その優しさって時代遅れなんですよ。その時代遅れにしがみついて、クソガキさん」
「クソガキがクソガキって言ってんじゃねぇよっ」
堪らなかった。どうしてもだったから、櫻は叫んでしまった。
「へぇ……そうですか」
――女の子がそう言いながら、まさに腹黒くて極悪な笑みを上目遣いで見せてきた。すぐに含みがあることに気づいた。しまった! と血の気が引いて、強烈な生命の危機を感じた。
「櫻やめてっ。お願いっ」
「…………ごめん。もう、分かった。……分かったけどっ、黙ってられるもんかよっ」
「恥ずかしいやり取りしてくれやがりますね。他人がバカにされて許せないって? 時代遅れなんですよ。ばかですか? 魔法使いの空間ですよ!? 記憶だって、今じゃもう容易く操作できます。おかげで記憶を遡れて、そのおかげでもう分かったんです! この世界のことが! 自分以外の全ての人間がいなくなったら、何でも叶うようにできてんです! だから神は微塵の代償で膨大な生命を創られました! 人が少なかったから、昔は神託を受けられたんです! オーパーツも造れました。再現化された本心で何でも叶うのは、ただ一人の自分の内側だからです! もう記憶だけで満たされるんですよ。この現実はもう、魔法使いの空間のために記憶を蓄えるための準備期間で、ルニ・オーソナーが真の人生なんです。今はその時代なんです!」
「だから他人がどうなろうが構わない時代だってのかよ! ふざけんなデタラメだ!!」
「単にデタラメにしたいだけなんでしょ? ルニ・オーソナーで何でも叶うのはなぜ? 今のこの溢れんばかりいる人間の中じゃ、願っただけでは叶わないからです! 祈りとかは無駄なことではないけど、みんな何かしら願ってます! だから、願いと願いが相殺合ってしまうんです! しかも人間が増えるにつれて潜在の力が衰退していきます! 今じゃもう、他人なんて邪魔なだけなんですよ!」
「都合よくこじつけたデタラメだっ!」――そして櫻は、思わず右手で下腹を握り締めていた。
今でも覚えている。覚えているのだ。藤谷がボロボロになった時の、忘れられない感情。
「腹の底をっ。……大切な人が目の前で苦しんだ時に、何かしてやりたいって思う、ここを! どうしてそんなデタラメで否定できるんだっ!」
「その感じ過ぎる心のせいで、自分の首も周りの首までも絞めてんでしょうが。ザコのくせに喚かないでください。所詮ザコはクズなんです。先輩の言葉なんか誰の心にも響きませんよ」
「あんたに言われたくないっ! 嫌でも感じるんだから仕方ないだろ!」
そしてあんたこそ時代遅れだと思った。表面だけで全てを決めつけるのだ。ザコだからって。




