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ちくしょおっ、と櫻は思った。
そうとしか思えない。
そうとしか思えないから、いい奴だなんて思ってしまった自分に腹が立つ。
ただのばかやろうだ。玲奈の方が、ただかわいそうなだけじゃないか。
蓮司はきっと自業自得だ。藤谷にまであそこまでさせたんだ。自業自得に違いない。
「……ごめん。……なのに、ありがとう、話してくれて……」
「気にしないで。……話さないわけにはいかないのは、始めから分かっていたの。無理をしたわけじゃない」
「……ありがと。それに、……もう、今日はやめよう」
「……そう、だね。……じゃあ退院の準備をしよう? お金の方は未成年だから、親から許可をもらったら契約書を書けば退院できるし」
「……その前に先生からオーケーが出ればいいな」そう言いながら櫻は、体だけを上り階段へ向けながら歩き出す。藤谷も歩き出した。階段を上って、上り切って廊下に入ると右に曲がる。
左に緑の引き戸の病室の並び。右に仕切りの少ない清潔なガラス。それが終わると談話室への入口があるが、そこも、その先のトイレも通り過ぎないとようやく辿り着くことができない。非常時専用のドアの行き止まりから三つ手前の病室だ。しばらく歩いて、ようやく病室に入る。
――前開きではないパーカーの知らない女の子が掛布団の上で片膝を立てて横になっている。
そしてたれ目の目だけを向けられると、「よぉ」とお淑やかそうな声で言われた。
知らない内に退院手続きを終わらされていたから、大学病院どころか、天山層建山脈からも出て、出入口まで通っている石の道を歩かされている。
櫻は今も、唇の裏で歯を食いしばらないと気が済まない。気が済まない。退院費用などの金を払ったのはこの、背中でハンドタオルをかぶせた右手で銃口を押しつけてくる女の子なのだ。きっとアンチリファードだ。アンチリファードが払った。最悪だ。無理やり借りを作らされた。
ふと視界の上の空にかかるもののほんの一部が見えたから空を見上げると、暗い青を帯びた紫色の空が、地平線の方へ下りるにつれて少しずつ茜色に吸い込まれていく。その向こうで、ステーションリングが、宇宙にかかる銀色の虹のように、右後ろから左前へとかかっているのが、微かに見える。その時、歌国のデレフトリーク・クォイロエカの立案によって老後のために造られた、宇宙ステーションのリングでの老後生活が、理想的らしいのが思い出された。
――空間移動でそこへ逃げ込められたら、と櫻は切実に思う。




