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「もう、仕方ないの」と藤谷(ふじたに)が呟くように()らした声を聞いた。そして、続きも聞こえてきた。

「あの蓮司じゃなきゃ、私は、(おう)がいなくなってすぐに、助けに向かうことができなかった」

「……それじゃあ、蓮司(あいつ)に教えてもらったってことなのか?」

「そう、だよ……。どうせ止められないんだからって、櫻を(おそ)う日を教えてくれた。そうして、きっと蓮司は止めてもらいたかったっ。蓮司のイグズィスティンクスが、妹を助けたい願いで発現(はつげん)されてたから。……けど、それが強くて、私は相殺し切れなかっただけなの……」

「……でも、蓮司(あいつ)の妹は……殺してって……。なんてっ、……なんて、頼まれたんだよっ」

 ――そう言った後に櫻はハ、と思わず言っていたことを自覚した。自覚したが、それでもだ。ここまで、アンチリファードのこと、蓮司(あいつ)のこと、ここまで聞かせてくれたのだ。これだけは聞かずになんていられない。

 藤谷は(うつむ)くように目線を下にして(くちびる)()んで、悲痛に何かを(こら)えている。眉根も寄せ上がる。

 しかしそうしているのは少しの間だけで、噛むのを止めた唇を開いた。

「蓮司が……妹のために脳の構造を、変えたけど、元に戻れない。……蓮司の妹は、玲奈(れいな)って名前なんだけど、玲奈はもう、そのことを知っているの。だから、全身を(ふる)わせながら、自分を抱え込むようにするほど、悲痛に泣いて」――そう始まった藤谷の話は、長く続いた。

 続いて、続けられて、()やむように続けられた。

 櫻は全て聞いた。聞いて、唇の裏で歯を食いしばらずにはいられなかった。

 玲奈は、後先を考えないバカだけど、バカだと笑われるほど優しい、そんな兄しか知らないそうだ。そんな蓮司(あに)は、後先考えないでアンチリファードに入って、(だま)されたことに気づいて、そして騙されたから抜け出せなくなって、そんな中で玲奈が人質にされた。

 だから、兄が兄自身を殺すほど、自分のために頑張ってくれているんだと玲奈は(わか)っていた。

 さらに、兄はアンチリファードを許さないんだということも解っていた。

 だから、私のために、自分を殺して、アンチリファードと上手く手を取り合いながら、私を助けようとしていると、そしてもしかしたら、自分の犯したことに対して責任を取ろうとして、自分の脳を(ゆが)めてでもこの状況を打破しようと深く考えもせずにしたのかもしれないと玲奈は、(ひど)く辛そうにしていたそうだ。

 しかし玲奈は、兄のいないこれからは嫌だと叫んだそうだ。

 元に戻せないのか、とも藤谷に(たず)ねたそうだが、藤谷は、元に戻せないことを、伝えるしかなかったそうだ。一度脳の構造を歪めて生きているだけでもとてつもない奇跡だから。まるで素人による手術が成功したほどの奇跡だから。だから次はないことを言うしかなかったそうだ。

 玲奈はやっぱり泣き崩れたそうだ。泣いて、思いっきり泣いて、そして口を開いたのだが、言った言葉が兄を殺してやってだったそうだ。

 私を助けても、兄自身の気持ちは、もう、きっと(むく)われない。元の兄じゃないから、きっと助けられても兄と一緒にはいられないから、何より兄がかわいそうだから、そんな兄と一緒にいるのが辛い。重過ぎる。もう、殺してあげた方がもう、兄が苦しむことはないんじゃないか。

 玲奈はそう言ったそうだ。

 そして、玲奈の解っていると言ったことも、全部その通りだった。

 だから玲奈のために蓮司を殺したのだと、藤谷は言った。

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