3
「うん。……きっと、だけど、失敗した場合は、現実に戻る過程で、元の性格に戻ると思う。それに、成功できたのは、まだ幼いから、脳もまだ幼くて、そのおかげで、柔軟に脳の構造が変化できて、それで、誰かの性格と、まるっきり同じになることもなかったんだと思う」
――それじゃあ、蓮司の意識がなかった間とかで、性格が変わったのだろうか。
そう思った時に櫻は、頭を支えられなくなってきたかのようにわずかに俯いた。
……酷く焦りを感じる。まるで、もう取り返しがつかないのか、と思っている時のようだ。
なんてことだよ。アンチリファードのために本心を歪めて、騙してでも妹を助けたいんだっ。
「……アンチリファードって、さあ……」
「え?」
「アンチリファードって、そこまでさせる奴らなのか? そこまで、せざるを得ないことを、してくるようなこと、してんのか?」
「……そう、だよ。……ただ人質にとるんじゃない。全部イグズィスティンクスを手に入れるためなの。しかも、人質からも手に入れるため。……あいつらは、動物からよりも抽出できるからって、誰でもいいから、人間なら捕獲する。そしたら腕脳を持たせて隔離する。……隔離された人は、血液を少しずつ抜かれ続けるの。……けど、腕脳があるから、そうされることで、そして腕脳の機能によって、イグズィスティンクスが大量に血管を走り続ける。……あいつらはそのイグズィスティンクスを、抽出しながら、人質として扱う。……人質が死ぬか、いなくなるまで、抽出して、貯蔵し続けている。今もそう。野良の動物も、蓮司の妹もされてる……」
「じゃあ、本当に、……本当に、……蓮司には、殺す気なんて、なかったんだ?」
「そうだよ。イグズィスティンクスは生きている生命にしかないし、死体になったらすっかりなくなる。だからあいつらは逆に殺すことができないの。殺したらもったいないから。たとえとんでもないことを言ったとしても口だけで、口だけで相手が怯えると思ってるだけで、実際に殺せる度胸なんてない。だからあいつらは蓮司を使って、というか蓮司はアンチリファードの使いにされているんだけど、だから蓮司を使って、何も知らない櫻を誘拐する魂胆だった。けど蓮司の本心は不本意だから、櫻に嫌われて、手に入れられないように演じてた」
――しかも、蓮司の態度は全部、違和を感じていたとしても、本気だとしか思えなかった。
……心臓が、苦しめてくるように乱暴に慌てて連続している。サー、と血の気が引きそうだ。倒れてしまいそうだ。気が狂いそうだ。思わなかった。そんなことだとは思わなかった。
性格は内側なんだ。他の誰にもない自分だけの核なんだ。なのに、ただアンチリファードが悪いだけなのに、そこまでしてでも自分を変えないといけないことに、なってしまったなんて。
恐らく、性格を変えた状態で現実に戻る時、死に至るリスクが十分高かったはずだっ。
僕よりだいぶ年下なのに!
ふと昔の視界が脳裏をかすめた。――もう近くにいない妹の飛び切りの笑顔が見えた。
胸を衝かれた。涙が溢れ出てくる。そして嗚咽が漏れそうなほど、櫻は悲しくなった。
……なんで、初めて会う前に、そういう蓮司を知ることができなかったっ。
知ることができたら、少しでも、あんなに腹を立てることなんか、なかったのにっ。




