サンバ
「私も櫻もこうして生きられているのは、蓮司がそうしてくれたおかげもあったからだって、私は思う。そして、あんなやり方をしてでも、櫻を捕まえないで済ませたかったんだと思う」
藤谷の言う通りだ。そうとしか思えない。櫻は知らない内に頷いていた。
――まるで、八百長なんだ。
「そもそも私がっ、」と藤谷が必死に続けて、必死に口を開けた。
「私が間に合ったのは、蓮司から何かダラダラ話されていたからでしょ?」
そうだ。言われた通りだ。蓮司の話に巻き込まれたから櫻は思わず頷いていた。
「それだっておかしいのっ。S.I.X.でなら、時間はかかるけど、独似三次元空間とかの空間創造を感知できるし、蓮司もそれのことを知ってる。それなのに、先に間創したんだよ?」
――だからあんなに蒸し返してきて、度々上を見て、回りくどく話していたんだ?
そう思いながら、櫻は知らず知らずの内に唇の裏側で力強く歯を食いしばっていた。
「本当の蓮司は、単刀直入に行動するの。本当の蓮司なら、あそこまで予想外な方法をして、独似三次元空間に巻き込んだのだから、瞬殺して、死体に向かって殺した理由を言ってるはず」
本当の蓮司?
そう思いながら櫻は、自分の知っている蓮司は、藤谷の知る蓮司とは違うのかと疑問もした。
そしてハッと気づいた。藤谷は蓮司のことをよく知っているんだと気づいた。
……でも、藤谷は、殺した。
「……なん、で……そこまで、解ってやってるのに……蓮司の妹に、頼まれたからって……っ」
しかし藤谷が苦しげに少し俯いて、口を力なく閉ざしたまま、言葉がない。
沈黙。――が始まったかと思った時に、藤谷の口が開いた。
「もう、自分を痛みつけるほどひねくれて、狂っているほど人を騙すようになったんだよ? ……元にも戻せないのっ。妹のためだからって再現化された本心で性格を、脳を変えたからっ」
――思いがけない言葉に櫻は頭の内側を引っ叩かれた。
「ゥ、ウソだろ!? あの中でだけのことじゃないか!」たとえ魔法遣いの空間だとしてもだ。
「けど、蓮司の妹が人質に取られた後に、全くの別人になったんだよっ? 話し方も考え方も、何よりも、蓮司が別人になる直前まで、蓮司は二日くらい意識を失っていたのっ」
「……それは、……」櫻はもう言葉が出てこなかった。ショックのせいとは違うと思ったのだ。
ただ、何か違和感のようなものを感じていた。感じていた気がする。――しかしそれでもだ。
「ルニ・オーソナーで、……性格を変えたまま、現実に戻れるなんて聞いたことがないよ」
「……できないことはないの。現実の方に、望んだ性格と同じ人がいないなら、だけど」
「そんなの、分かるわけないだ」――いや、分かるんだった。同じ存在は二つになれない。
「……同じ性格も、二つになれないから、成功も、失敗も、結果次第で簡単に分かるからか?」




