3歩
「……じゃあ、誰の?」
「自分の親、自分まで繋いでくれた無数の祖から授かった力なの。それって、エネルギーではあるけど、無数の祖の、全員の願いをそういう姿に変えて、年老いた細胞じゃもう動かすことができなくなったからって、私たちに渡してくれたの」
無数と聞いた時櫻は、また蓮司の言葉を思い出して、思わず首を傾げながら鳥肌に襲われた。
「願いじゃ、なくて、生命じゃないのか……? 蓮司、そんなこと、言ってたような……」
ああ、と気づいたように藤谷の表情が微動した。
「それはただ生命って言い換えただけだと思う。私も蓮司から同じようなのを聞いたことあるし、無数の祖の本人にとっては願いが生命に等しいんじゃないかってことも聞いたの。だから、生きていてほしいとか、一緒に生きていたいみたいな願いを、生命って言い換えたんだと思う」
「願い……。一緒に生きたいって?」
藤谷が軽くハッとした。
「ご、ごめん。一応、誰だって、例外なく、父親と母親の一部を、合体した状態でもらって、産まれてくるって思うから、きっと身体の中で、今まで繋いでくれた両親と、繋がっているのかもって思えたの。だから生きたいって感情は、自分だけのものじゃないのかもって思ったの」
「……そっか。……本当かどうか分からないから、なんとも言えないけど、でも、死にたくて産まれてくる身体なんてないもんね。……一緒に生きたいって思った人もいるかもしれない」
――いやっ、一人でも絶対いる!
「そうか!」と櫻は、やっとしっくりきた。
「僕も、っていうか人間も生きものなんだから、生きたいって本能と、子どもを残したいって本能を持ってて、それも願いなんだ! だからイグズィスティンクスなのか!」
と、藤谷が考えるように目を上に向けたが、頷いてくれた。
「後ね、それだけじゃないよ。何か食べたいって欲求も、願いだし、好き嫌いしないで食べろってのは命令だけど、それも願いの形だよ。こうして櫻に話してる行動だって、願いの形だよ」
「……それは、生きたいとかってのとはちょっと違うんじゃないのか?」
「そんなことないよ。生きてなきゃできない。したいことは全部、生きたい気持ちの形だよ。死にたくて死のうとするのも、死ねるまで生きたいってことだし。働くことだって、生きたい気持ちの形。願いも行動も言葉も、そういう働きかける力は全部、生きたい気持ちの表れだよ」
嗚呼! と櫻は実感した。みんな、イグズィスティンクスで生きているのだと。
――しかし、本心を再現化させることは、もう一度殺すことだと蓮司は言っていた。
「そうだっ。……本心の再現化……」思い出した。櫻は目を見開いた。
信じられるとは思えない。しかし受け入れないといけない現実なのだと思ってしまう。少し思いがけなかったのか、藤谷の目線が少し泳いだのに気づきながら、櫻は本心を再現化させた時を思い出していた。――その時は、たくさんの生命を壊しながら、再現化させている?
泥か、ケミカルな毒を体内に混入されて全身を侵されたかのように、総毛立った。
自分の内側にある、そこになければならない重大なものが欠損してしまったかのようだ。
「ぼ、くは……殺したんだ……? 今、だって……ご先祖様まで、殺して、生きてんのか?」




