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だから櫻は反射的に右腕を目の前に上げた――が、まだ病衣のままなのを忘れていたから、恥ずかしくなった。しかし、穴をあけられた時を覚えている。少しの熱さも感じなかった。
「櫻、大丈夫?」
「――へっ!? あっ、ぃあっぅ、うんだだだだだだ大丈夫……。だけど、不思議だなぁ……」
「ぅ、うん。……けれど、感情とか本能とか、そういう気持ちに応えて後押しされたからなの」
「感情……そうなのか……?」――ハッと思い出した。確実に人間の自分だって放出していた。蒼白い光にぶつかりながらも走った時もだ。蓮司とのつばぜり合いの時もだ。まるで見えない誰かが力を貸してくれているような感覚があった。強く思って念じる度に、増していった。
「……そういえばなんだけど、藤谷からお護りって渡された後、……さっきにも聞こえてきた声と同じ、なんだけど……自分の声なのに、自分の声じゃないのが、聞こえたんだけど、……その時に、腕脳と頭脳が繋がったおかげで、気持ちに応えてくれるようになったんだよね?」
「それは、ちょっと違うの。さっき、腕脳を通じてって言ったじゃん? そうさせるのって心なの。手足を動かすような時とか、熱いのを触ったら反射的に離れるような時とか、嬉しくてガッツポーズをするような時とか、そのような時の、腸と頭脳からの命令に応えてくれるの」
「そ、そうなんだ……。あれ? 心って……頭脳だけにあるんじゃなかったっけ?」
「ぇえ……小六の問題だよ? 心は、お腹の底にある腸と、頭脳の二つで成り立ってるって」
「ゔッ!! ぁっ、はは……」と苦笑いしながら櫻は何とか思い出した。腸煮えくり返る、といった言葉があったり、幸せホルモンとも言われている神経伝達物質の一種のほとんどが腸で分泌されていたりするように、実際に腸にも脳があるのだった。
――だから、脳は正直で、意識はそうではないんだ。櫻はそう、蓮司の言葉を思い出した。
そして、気に食わないが、その通りだった。自我は、思考は、進化の過程で生まれた二つ目の心なのだった。思考する感覚を、頭に感じるのはそのためだった。しかし、腹の底の本心は感じにくい。だから二つ目の心というツールで、本心を自覚してみなくてはならないのだった。
「……じゃあ、死にたくなかったから、あんな、……あんな……天山層建山脈が崩れてしまうほどの、爆発の中でも……生きてられたのかな……」
「うん。……そのおかげだよ。……私も、だけど……」
「気持ちに、応えてくれたから、か……。でも実感ないんだ。僕のがそれほど強かったなんて」
「櫻の気持ちだけじゃないよ。その気持ちの分応えてくれたエネルギー、力も強かったんだよ」
「え? ど、どういうこと?」
「櫻の気持ちに後押しされた力が、櫻の気持ちの強さの分強かったの。その力は櫻だけのものじゃない」




