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藤谷が頷いたから、櫻は腕時計に目を、意識と一緒に向けた。願う。痛みがあるようでない痛みも、記憶がおかしいこともない、元の体に戻っているよう、願い続ける。意識し続ける。
『要求を感知。(ザ ディマンド ヮズ レシーヴド。)自然治癒促進が有効になりました(ブーストナチュラル ビカム エフェクティヴ)』
そんな機械音声のような自分の思考の声が、十秒くらいが経った時に聞こえてきた。
「……なんか頭の中に聞こえてきたんだけど、これでいいんだよね?」
「うん。イグズィスティンクスが治しながら消してくれる。もう腕とか動かしてみていいかも」
櫻はうっと一瞬躊躇ったが、右腕を上げてみた。――筋肉痛があると思い込んでいるようなそれが、すっかりなかった。ここにくるまで藤谷についていくだけでもしんどかったのに、だ。
何よりも、頭の中のモヤモヤが消えて、すっきりしている。
だからあの囁きが気のせいだった現実の方を思い出してみるとすんなり思い出せる。みんなで祐樹を囲んで、復活の呪文として祐樹の全身に滝を落としたこと。ドロケイを再開した後は、目つぶしの仕掛け合いになったこと。みんなと転んで一緒に、透明な仕切りにぶつかったこと。
――全て思い出せている。
これも、イグズィスティンクスのおかげの一つということなのか?
そう思いながらも納得しようとした時、藤谷に聞きたかったことがあったのを思い出した。
「というか、イグズィスティンクスって何なんだ? こんなことまでできてしまうなんて……」
と、一瞬だけ、藤谷の目が泳いだように見えた。様子が少し変わったようなのも感じる。
微かに、さりげなく、その話はしたくないような、どこか苦手なような雰囲気を感じる。
そんな藤谷の口が、躊躇った風に開かれた。
「……私も、……実は私も、知らなかったの、そんなエネルギー」藤谷がそう言い切った時、目と目がちゃんと合わさった。櫻は、何だか一瞬、なんて返そうか分からなくなった。
「そ、う……だったのか」
「うん。けれど、今はとても解る。イグズィスティンクスって増幅する特性もあるから、外に拡散して減るよりも、増える方が勝っていれば、いつまでも増え続けるエネルギーなの」
「増え、続ける。……マイ・ライフ・ィズ・ァ・*ァッキン・ライ(マイライ)の呪力みたいじゃんか……」
そして呆然としてしまったが、しばらく経った時、櫻はふと電池と比較していた。
「だから利用したくなるのか」そう言った直後に藤谷に頷かれたが、まだ実感がない。
「……本当にそんなエネルギーが僕の中にもあるの? 内臓しかなさそうなのに……」
「うん、それも言おうと思ってた一つなんだけど、そういう内側とは、ちょっと違うの。別の見方をすると解るんだけど、全身の内側から、腕時計を通じてエネルギーが外に出されているのは確かだよ」
「外に? それじゃああの、青っぽくて白い風がそうなのか?」
「そう。それに、蓮司もだけど、私も、銃を撃って出していた光るものもそうなの」
「そうなの!?」と思わず叫んだ後にフ、と不可解な現象を思い出した。




