表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/221

 すると突然、顔を上げてきた藤谷(ふじたに)が、必死に眉根(まゆね)を寄せ上げながら口を開けた。

「だけど、(おう)がっ、苦しい思いをしちゃうからっ、……だからいっそ、独似()|三次元《っ》空間()の私を忘れてしまえばいつもの、気持ちでっ、過ごせるはずだってっ……」

「……ごめん……。でも、違うんだ。独似()|三次元《っ》空間()の記憶だけじゃない。……思い出すと、ごちゃごちゃになるけど、現実(こっち)の記憶もちゃんとある。……ちゃんと、忘れようとしていたっ」

「……うそ……。そっちも……なの……?」そう言って藤谷が、目を見開いて驚愕(きょうがく)している。

「でも、……覚えているのは、きっと、……一生忘れちゃいけない、ものだからなんだと思う」

 そう言ったら藤谷と目を合わせられなくなって、櫻は掛布団(かけぶとん)の方へ(うつむ)いた。

 そして鈍痛(どんつう)(おそ)われるほど両手を、知らない内に(にぎ)()めていた。

「今思っていることだけど、忘れたら、一生後悔するって、(こわ)くて(たま)らないんだっ……!!」

 そう言った時、声まで力んでいた。しかし、どうしても忘れたくない気持ちでいっぱいだ。

「……思い出せないかもしれないけど、忘れようとしてくれてたのは、あの時から分かってた」

 櫻は藤谷へ顔を上げると、藤谷は目を()せていた。

「――けどっ、」しかし急ぐように目を合わせてきて、口を開けた。

「櫻のその、忘れたくないって、忘れたら後悔するって気持ちは、本当は()くさないように、大切にしてほしい気持ちだよっ。ウソじゃないっ。だからもう、忘れようとしなくていいっ」

 藤谷がそう必死に言った。――忘れようとしなくていいと、言ってくれた。

 櫻は、脱力とは違う力が抜けるような感覚を抱いた。

 それはまるで今まで知らず知らずの内に張り()めていた緊張が、一気に(ほぐ)れたみたいだった。実は重かったらしい胸の奥底が、軽くなっていくのを、感じることができている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ