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袴田の企みのせいで、殺人未遂犯に仕立て上げられた。袴田のせいで友達の全員が裏切った。厄介だった。小学校のクラスは三組まであるが、三組あるクラスの中の、ほとんどが顔見知りなのだ。クラス替えになっても同じだ。ほとんどの人が顔見知りだ。友達の五六人は同級生だ。
その、友達だった全員も、袴田と攻撃してきた。「女子の体操服を盗んだのを大竹のせいにされたくなければ」と脅されるだけでなく、袴田がただ屋上から落下防止ネットへ飛び降りたことを、僕が突き落としたことにされた。チョーク入れの中の粉を毎週、頭の上にかけられた。
袴田のせいで全てが狂った。許せなかった。だから頭の中で、袴田を殴って殴りつけた。
頭の中で。再現化された本心の内側で。腕時計の形をした第三の脳――腕脳と呼称される夢によるタイムマシンを、非公式改造して出来あがった魔法使いの空間の中で、殴りつけた。
――あの囁きが聞こえてくる前も、美喜たちと四人で作った再現化された本心の中だった。
それなのに、まるで連れ去られた。
そう思うとともに凄まじい焦燥に駆られたが、当時の記憶も彷彿されてくる。――胸の奥底で暴れ回る殺意を出し尽くしたくて袴田をオゾン層の摩擦で消滅させた。その時の袴田の苦しむ声が快感だった。もう楽しくて笑いながら、爆発魔法で唐突に眼球をそのままパシンと破裂させてやったり、内臓だけを一つずつ、爆発魔法で粉微塵にしてやった。袴田という存在が、記憶から消え失せるまで粉微塵にしようと、毎日、あらゆる魔法で、全身を切り刻んだり体の一部をミンチにしたり、目をくり抜いてやったり遥か上空から叩きつけてやったり、そんな感じで苦しめた後は毎回、締めとして破裂させたり、し続けてやった。
毎日、三ヶ月くらいの間、殺し続けた。
大切なものを一気に失う苦しみを与え続けた。
それをするのが心地いいから、快感だったから、やめられなかった。
しかし、次第に、自分が狂っていることに気づいた。
血と涎と涙にまみれた全身。――もう殺人犯じゃないかとゾ、として、泣き喚いた。
それでも、毎日天井裏から袴田に見下ろされているようだった。トイレの中にまでも、風呂の中にまでも、どこまでも、いつだって、つき纏ってくる。頭の中から消えてくれない。
だから袴田を考えないように、考えないように念じていく内に、自分の部屋に閉じこもってしまった。閉じこもるしか考えられなかった。学校に行ったとしてもそこまで陰気過ぎる僕だ。的になるだけだ。もう恥をかきたくない。そもそも袴田を見たくない。だから両耳が痛くなるまで曲を聴いたり、ボタンが潰れるまでゲームをしたりして、ずっと閉じこもるしかなかった。
ずっと、そうして、一年以上が経った時、僕は藤谷に抱き締められた。
自室に、ランドセルを背負った藤谷が突然入ってきて、抱き締めてくれた。同じクラスにはなったことはあるが、口数が少なく大人しいからあまりに衝撃だった。しかも無言でだし、さりげなかったからまるで、背中からそよ風に撫でられたようで。スパンと何かが払拭されて、涙が止まらない。泣いた。最後はぐったりするほど涙が溢れ出てきた。
急き立てられた。藤谷に。毎日。近所のアパートに住んでいるようで、そして僕は友達に裏切られてからは予鈴に間に合うように家を出るようになったから、通学路でよく見かけられたみたいだ。中学も同じ。毎日だ。もう立ち上がろうと腹の底に力を入れた。
その経緯を美喜が分かってくれた。ふとした時に手を掴んでくれたのが嬉しかった。――美喜は藤谷と友達だったから掴んでくれた。
その日の夜、美喜のほんの少しの優しさが大きく、深く感じられて、腹の底から大泣きした。