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――ありがとうだけじゃ済まないのにっ。
美喜も祐樹も幸生もいるところへ、もうすぐ一緒に帰れると思ったのにっ!
強烈な鈍痛に襲われながらも、全身を力むほど、櫻は腹の底から思う。
そんな中で、胸の奥底で荒々しく、激しく息づいているものに気づいた。
まるで、全身の内側でウズウズしながら、外へ出たいと待ち望む感情だ。
――それを感じられたおかげで、なんで忘れられなかったのかが、分かった気がする。
きっと、忘れる以上の形にしたいんだ。
今じゃ、わがままになってしまったけど、それでもだ。
藤谷は今もあの武器を持っているはず。何かと戦わなければならない状態なのかもしれない。
こんな自分にだってできることがあるのかもしれないっ。
だから櫻はもう顔を上げた。掛布団から出した左腕で――鈍く痛くても――両目を拭いた。
拭き終えたから左腕を離した時、左手首に焼鉄色の腕時計をつけたままだ。しかも、それはヒビだらけだ。ヒビのところどころはわずかに盛り上がっていて、岩肌のようになっている。
――なんであるんだ!? と脳がショートしたかのように一瞬思考も時間も分からなかった。
……まさか、この腕時計のように、藤谷もっ!? と櫻は反射的に顔を左へ向けようとしたから、iCPCを探す前に首が鈍く凄まじく痛んだ。
しかし頑張ってちゃんと左を向いて、しかし何もなかったから頑張って、右を向くと、壁と壁の角に隣接している、白いサイドテーブルがあった。――そこの上には財布もiCPCも、自宅の鍵も置いてあった。その左隣には衣紋掛けがある。ブレザーなどの制服が掛かっている。
右腕を上げようとすると思い出したようにまた堪らない鈍痛に襲われるが、頑張って上げて、頑張って手を伸ばして、iCPCを五本指で掴んだ。
と、最上両端のボタンを押して開いたが早いか、二つの画面が合体して一つの画面になった直後、着信通知のダイアログが現れた。美喜と祐樹からの不在着信とメールの通知がその中にあった。そのダイアログは基本、不在着信の通知で表示されるものだが、メール通知も一緒にある時は一緒に通知してくれるから、十三回の不在着信と七件のメールに櫻は焦りを覚えた。
櫻は急いで通知ダイアログを見ながら三連続の瞬きをした。ダイアログが消えて、電話画面の不在着信の項目が出たと思えば、受信トレイが重なって現れた。
未読メールの一覧の中の、御宮美喜と油賀祐樹、藤谷百合奈と気宇幸生を見た。両親の名前も、受信時刻も見た。夜の十一時台にきたものらしい。
しかし、中には二十二日もあった。二十三日のものもある。咄嗟に最上の現在時刻を見ると、二六九一年の二月二十三日。――四人の再現化された本心へ入りにいった日から三日後だった。
そして、その間、ずっと眠り続けていたようだ。




