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目蓋の向こうの薄い朱が眩しくて、櫻は目を開けた。
下から射してくる放射状の日の光が、目の前を通り過ぎている。その光の、向こう側にある白い天井が、無機質なはずなのに輝いて見える。――この光は恐らく昼のものだ。
同時に知っているような気がした。確かここは天山層建山脈の中にある大学病院だと思った。小学生の頃、カウンセリング関係でお世話になった。――ちゃんと帰ることができている!
よかった、と強烈な安心を感じた時、櫻は大きなため息を吐きながら自ずと目を閉じていた。
現実にいることが、堪らないほど嬉しい。あんな恐いことがもう終わっていることもだ。
そうだよ、とも思いながら、思わず鼻で笑った。藤谷に目つぶしされかけただけだったのだ。
そもそもひじきだって独似三次元空間で崩壊して転んだんだ。そして蓮司の狂い咲きの自動退空間移動で囁かれて本心のお願いだから黙れ――いい加減何考えてんだっ!?
頭の中のごちゃごちゃした感じを振り払いたくて首を振り始めた途端激しい鈍痛に襲われた。
目を剥いて、大口を開けたままでいることしかできなくて、もう死にそうだ。
なんて筋肉っ――!! と閃いたように思い出した。全身筋肉痛なんてきっと人生で初めてだ。
しかし今、自分の股関節の辺りでめくり返された白い掛布団を見下ろしている。――思わず起きていたようだが、今、病衣を着ているのが見える。起きられている。
なんでっ!? と胸中で叫んでいた。起き上がれないほどの鈍痛のはずだ。それほどの痛みなのだからピクリと力んだだけで、手首を外側に無理やり捻じられた時のように悶えるはずだ。
なのに今――掛布団の中にある右手を、頑張って握っては、解いてを繰り返してみて、辛いと感じているというのに、鈍痛に違和を感じている。
まるで全身が筋肉痛だと思い込んでいるかのようだ。ただ、その違和感は、握っては解いてを繰り返すほど、確かに和らいでいる。本当に無意識に思い込んでいるだけみたいだ。
――独似三次元空間にいた時のことを忘れられていないから!?
……いや違う。独似三次元空間にいた時ではない記憶もある気がする。
あの突然の囁きが、ただの気のせいで終わった後の記憶もある気がする。
しかし思い出そうとするとおかしくなる。透明な仕切りを突破したおばあちゃんを引っ張り出した後、右手の甲が痛くてってっていっててってみんなと手を合わせて「ひじきだぜ」だ。なんだこれは。ごちゃごちゃだ。まるで起きていながら夢でも見ていたかのようだ。
しかし、どっちが夢なのかが全く分からない。
……分からないが、確かなことがある。
忘れることができていない。忘れられていないんだ。藤谷に、忘れるって言ったのにっ。
思わず唇の裏で歯を食いしばる。あまりに悔しい。不意に涙も溢れ出てきた。




