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ゴッ!! と鈍い音がしたのは藤谷が蓮司に頭突きを仕かけたからだ。それで蓮司がわずかにのけ反った。が、蓮司がそのまま左の裏拳で藤谷の頬を殴って、櫻の方へ藤谷を飛ばした。
――頭の中で何かが炸裂した。櫻は目を剥いた。「ゔあああああああああああああああッ!!」
音が消えた。視界が分からなかった。突き飛ばされたように前のめりで滑り出していた。
僕だけなんて絶対に嫌だっ!! ――そう腹の底から激しく願っていた。
左前を向く藤谷が、左足で堪えて、地面に足をついたように踏ん張ったのが見える。
と、櫻は右手に感じた。鍔から、無数の氷の破片が水のように流れているかのような感覚を。
さらにはいつの間にか、スケート靴の刃に強力な滑り止めがかかったのか、アスファルトを蹴っているかのように、時々滑るような感覚さえもなくなっていた。
蓮司がバッと櫻を向いて笑ったと思えば、「お前も相手してやらぁ!」とレイピアを一瞬でハンドガンに変形させるが早いか、切っ先のような銃口を向けてくる。
電撃音とガラスの破砕音が一斉に鳴ったかのような銃撃音。銃口も蒼白く煌き出した。
――みぞおちを定規の先で殴られて押し込まれたかのような衝撃。体をくの字にさせられた。
痛みはなかった。勢いだけだった。が、櫻はあまりのことに頭が真っ白になった。
右肩左腿喉とさらに畳みかけられて思わず顎を引く。突き飛ばされたかのような勢いで全身が後ろへ傾く。さらには顎を撃ち抜かれたかのように殴られて全身が伸びた。氷についている右足が前へ滑っために空中で前へ伸びる。歯を食いしばって、何だよこれっ、と胸中で唸った。
ふと氷にもたれかかるように仰向けで倒れた。叩きつけられたようで内臓が揺れた。そして前へと滑っていっていく。――その過程のおかげで我を取り戻せた。すかさず上体を起こした。
そういえばもう撃たれていない。そう思った時、藤谷が蓮司のみぞおちへ両手のライフルの銃口を押しつけて、突進しているのが見えた。
「こんのおおおッ!!」藤谷が叫んだ直後、轟音が鼓膜をぶん殴ってきた。――重厚な氷塊が強烈な衝撃で砕け散ったかのようだった。そして蓮司が左前の方へ、低空飛行で飛んでいく。
その時もまだ仰向けの櫻は立ち上がろうともがいた。丁度、右手の刀身のない焼鉄色の太刀が見えた。――いや、もう違っている。刀身がある。まさに日本刀の、焼鉄色の刀身が。
だから太刀を逆手に握りながら左手も柄を握って、右前へ突き刺した。――氷がドリルで削られているような削砕音。氷を斬っている。その中で立ち上がろうと力を込めた。と、左腕も両足も、誰かの手助けをもらっているかのように、想像以上に早く動いてくれた。素早く、軽やかに立ち上がれた。だから足を逆〝ハ〟の字にして駆け出しながら、太刀を引き抜こうとすると、また手助けをもらいながら引き抜けた。だから、蓮司の飛んでいった左前へ曲がった。
「櫻っ、そんなっ」右前から藤谷の必死な声がした時、片目が閉じかけている顔を向けられた。今にもくずおれそうに両膝が内側に寄って、曲がっているのも見た。
「私はお護りとして、渡しただけだったっ。自分のことだけ、考えてほしかった!!」
「そうだっ! 考えたから、僕だけ生き残りたいなんて死んだ方がマシだ!!」
今も残る胸の疼きが増したのを感じながら、櫻は前へ目を向けて、藤谷を通り過ぎた。
その時だいぶ遠くの透明な壁の辺りで持ち堪え終えたらしい蓮司が、切っ先のような銃口を、震えながらも向けてきた。
「藤谷と一緒じゃなきゃああああああああ!!」櫻は叫びながら踏み出した右足を踏み切った。――想像以上に気持ちいいほど強く。
『プロセッサー、イクストリームブレイクダウンブースト〝ANPOSTERIOR〟を有効(ジ イクストリームブレイクダウンブースト〝エンパステリエア〟 ヮズ メイド エフェクティヴ)』
不意に、機械音声のような自分の思考の声が脳裏に響いてきた。




