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 と、藤谷(ふじたに)が申し訳なさそうに、目線を左下へ落とした。

「こうなるって、分かってたの。これからも、もっと怪我(けが)するのだって、分かってる」

 そう言いながら、左手をスカートの左ポケットに入れて、小型のペンを取り出した。

 ――いや、キーホルダー型のペンのような、太く短く、針も短い注射器だった。

 と、それを自分の首に突き刺すが早いか、ペン先を出すように親指で押した。

 ガク、と気絶したかのように藤谷の両膝(りょうひざ)が曲がった――が、それでいて持ち(こた)えている。

 その両膝が体を持ち上げていく。しかし全身がガタガタと危なっかしく(ふる)えている。さらに、左腕がだらりと垂れ下がった。左手の注射器が(すべ)り落ちた。

 ――何をしたんだ!? そこまで追い()められた体に!!

「けれ、ど……っ、それ以上に、蓮司(れんじ)にさせたくないっ。(おう)だって死なせたくないっ!」

 その藤谷(ふじたに)の荒げた声は本気だった。

 さらには両膝が伸び切った時、頼りない気配(けはい)がするが、真剣な眼差(まなざ)しを向けられた。

「まだまだ、頑張れるからっ。ここまでこれたんだもの。……私、櫻のそばにいれて嬉しいよ」

 (かす)れながらも(しぼ)り出したような声なのに、本当に嬉しそうに、藤谷が言った。

 胸が辛くて、櫻は眉根(まゆね)を寄せながら目を細めた。藤谷が次第に(にじ)んで、涙が(あふ)れ出てきた。

「ここまでのイグズィスティンクスとはやるじゃないか! さっきとは強度がまるで違うぜ!」と蓮司の楽しそうに叫ぶ声が響いてきた。

 そんな中で藤谷が、スカートの右ポケットから、焼鉄色(やきてついろ)の腕時計を取り出した。

「分かってたから持ってこれた。私からのお(まも)り。……これに願って、ここから動かないでね」

 そう微笑んだ藤谷が、慎重(しんちょう)に、手探りで手を伸ばしてくるように、両手で差し出してきた。

 櫻は震える右手を、恐る恐る伸ばしながら近寄って、腕時計を確かめるように、()まんだ。(にぎ)った。――藤谷がその手に左手を、(あたた)めるように当てて、頼りない力で握ってくれた。

 一瞬戸惑ったが、櫻は完全に開いた目で、その手と藤谷の表情を交互に、ゆっくり見る。

「命令だからね? どうしても破るのなら、護ってあげないからっ」

 (やわ)らかいのに力強い、そんな声を聞いた時はまた手の方を見ている時だった。

 目線を上げて藤谷の表情を見た時、微笑みは消えていて、本気の眼差しだけを向けられた。

 と、風に吹かれたように後ろへ身を(ひるがえ)すと、両側に突き刺さったままのシールド付ライフルの握り(グリップ)(つか)みながら()け出した。そして藤谷は両腕を()ながら引き抜いた。

 ――重低音(じゅうていおん)が割れたような固い噴出音が爆発した時、櫻は突風を受けながら顔を両腕で(おお)う。

「分かった分かった。ビオナフィラキシーだな!?」蓮司の楽しそうな声も聞こえた時、櫻は両腕を下ろした。

 藤谷が体を左に(ひね)って、左腕と刃を一直線に伸ばしたが早いか、勢いよく()りかかっていた。――氷塊(ひょうかい)がけたたましく(けず)られたかのような激突音と同時に、藤谷が左手前へ(はじ)かれた。

 藤谷と向かい合う蓮司の笑顔。蓮司の右手には、ナックルガードが銃身(バレル)のカラス色レイピア。

 藤谷が蓮司よりも早く急接近していく。と、さっきと同じ激突音が炸裂(さくれつ)して、絶えず鼓膜(こまく)(なぐ)り続けてくる。(おそ)いかかってくる暴風が、激しい水飛沫を食らっているようで(しび)れる。全て一瞬の内に起きた。櫻は今になって目をグッときつく()めて、また両腕で目元を覆った。

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