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「YO」
突然だった。
確実に、右の耳元で囁かれた。
妙に大人びた高めの声。しかも知らない声だ。櫻は目を見開いていた。
ゾ、とする。背骨の上をナイフの切っ先でなぞられているような、不気味な悪寒。
見たい。
何があるのか、気になる。目だけでも向ければ少しは見えるだろうと思う。怖いもの見たさだということも解っている。もし見たら後悔するものだったら、と不安にもなっている。……でも見たい。なのにまばたきさえもできない。動けない。目が開きっ放しだ。乾き切りそうだ。
祐樹の方を向いている藤谷も気づいてくれない。呆れた風な美喜の愚痴を聞きながら苦笑いしている。――ふと、こっちを向いて気づいてくれて、何らかの反応をしてくれたらいいのに。
「DO YOU REMEMBER NOW?」
体の内側が後ろへと引きずられる感覚が、高速道路の料金所を通過した後に車の中で感じる慣性のようだった。視界も目眩のように分からなくなった。――呼吸を忘れたかのように空気まで吸い込めない。両耳の中で膜がパクパクと鳴るような音までもパクパク聞こえてきている。
急に景色が映った。
最奥の枯れ枝の木々(きぎ)の手前で、売店だった建物たちが行き止まりように通路を囲っている。その手前に横の通路。――ゲームセンターだった建物の入口から見た景色。
遊園跡地の中だ。
五年前まで民営鉄道会社の一環として運営していた遊園地だったが、経営不振か何かの理由で閉鎖された遊園地の中だ。何より、ここは侵入口から近い。
しかし櫻は分からない。何故、侵入した後のようにここにいるのか、どうしても分からない。
と、度々(たびたび)降る雨粒がビニール傘にブツブツ当たっているような音が聞こえ出した。
あ、と思い出して振り返ると、自分のも含めた四人のサブバッグが、柱に寄りかかっている。
――戻っている!
いや、なんで強制退空間移動されたんだ!? ……誰かがしたのか? まさか侵入者とか?
今度はオルゴールが壊れかけているから音程が外れて、不気味になったようなその音が爪先の方から聞こえてきた。――え? とその方へ顔を下ろすと、カード型ICレコーダーがある。
それを拾おうと屈んだ時、革靴の底がアスファルトを擦る足音が近づいてきた。櫻は咄嗟にその方へ顔を向けながら、ゲームセンター跡の中へ身を翻そうとしたが、いつの間にか遠くに現れた黒いロングコートの警備員と、すでに目が合っているに違いないと気づいたからやめた。
警備員が、最奥の建物同士の間から歩いてくる。その両手が、人差し指と中指を切断されて、その内側に回転式の拳銃を埋め込まれているかのようだ。シリンダーの前で銃身が伸びている。