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「今度は逆に最終確認だ」突然、少年の右手首の腕時計が、急ぐように変形し始めた。時計の箇所が、バンドの方へ二つに分割されると、鎖が自重で重々しく落下するように落ちながら、右手の平に向かって一直線の金属棒へ変形した。それは少年の人差し指と親指に摘ままれた。
今度は変形ではなかった。右手の斜め下へ急ぐように、大きくなったり伸びたりしている。まるで、一度も通ったことのない通路へ水が流れ込んでいく、その流れのように、カラス色の水に見える物質が、素早く形作られながら大きくなっていく。
その直後には、銃身のようなナックルガードのカラス色レイピアに変わっていた。
また、急ぐように変形が始まった。今度は細身の刀身が収納されたり折れ曲がったりした。
まるでハンドガンと化した。――ハンドガンに違いないっ。
信じられない! 思い出の再現化以外に使える機能など、一切ない腕脳のはずなのに!
非公式改造のされた腕時計でもできやしないというのに!
「早くしたいから言うことを聞けよ?」少年がそれを担ぐように右肩に乗せた。
胸の内側をハンマーで殴られたかのような衝撃を、櫻は受けた。
やっと今、やっと、本当に生命がかかっていることを、実感した。
「それとも先に袴田くんのことを聞く?」
腹の底から悔しい感情に襲われて、気づいた時には俯いていた。
「……、確認ってなんだよっ」櫻は絞り出すように言いながら、顔を上げた。
隙が見えない。分からない。従うしかない。そうしないと確実に生きて帰れない。
「ああ。もう十分気づいてんだろ? 再現化された本心の魅力に」
勝手に話を進められているだけだ。
「ウソだろ、確認なんてっ。そもそも何で銃まで向けられなきゃなんないんだ!」
「下手なことさせないためだし」
だからって何でここまでされるんだっ。そう思いながら、櫻は唇の裏側で食いしばった。
「んでさ、どう? 現実の方でも何でも叶ってほしくない? 他人がいるから叶いにくいわけだしさ。こっちにくれば何でも叶う方法が分かるよ? 俺たちはそれを知っているし」
……頷くしかないのか? と櫻は思ったが、そう思うのは一瞬しかできなかった。頷いたら美喜たちから離れることになるはずだ。絶対に嫌だ。頷けるわけがないっ
「……満足できないっ。本心の再現化だけじゃダメだ! 全部、全部これからなんだよっ!」
「……ハッハ、もったいない奴だなあ! その大切な、また作ることのできた大切な友達と、現実でも同じ時を、同じ場所で一生、永遠に楽しんでられるってのも分かってんだろ?」
「それは、……確かにそうだけどっ」違う。そうじゃない。そういうやり方じゃない。
ずっと一緒にいられず、別れてしまったとしても、違う時間、違う場所でも、違う立場でも変わりゆく世界の中ででも、昔とずっと変わらずにいられる。
そんな友達との在りかたの方が最高に決まってる。大切にだってしていけるはずだ。
この先、以前の自分を再体験する時は、友達をより大切にしたいと願った時だ。




