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町の片隅で  作者: 那海晴
9/13

金太郎飴

燕は笑う。

「梨絵。兄貴。彩。咲歩。奏舞。ごめんな、いきなり呼んで。」

「別に気にしてないぜ?」あいからわずの鼻声だ。「そういえば、彩。辻は元気なの?」

んー?、と彩は笑った。「あのねー、おにーちゃんは、テレビに出てるよー。」

はぁ?

梨絵と咲歩は顔を見合わせ首を傾げた。

「辻がテレビ?」

「うんっ!」

ないないない。

別に容姿も特別恰好良い訳でもなかった。テレビ?それは、ない。ないない。

「……ないない。辻が出る位なら俺が出てる。」

「いや、お前もない。」

「……。いいよ、もう。話題を戻そうよ。駄菓子屋の事なんだけど。」

兄貴が聞いた、あのやりとり。

咲歩の見た、書類。

兄ちゃんの様子。

「……本当に、閉店しちゃうのかな……。」梨絵だ。「彼処が、閉店しちゃうなんて、嫌だよ。」

「皆そうさ。」

俺等に出来る事、何かないだろうか。



***



甲子園特集。彼奴と期待の新人とかいう奴がインタビューを受けている。全く、有名になったものだ。彼奴も。

からん。

音が鳴る。青年はテレビを消して、目を向けた。

「いらっしゃい。……おお、兄貴君。彩ちゃん。」

「俺は兄貴なんていう名前じゃないんですけどね……。」少年は苦笑いをした。

「彩。なんでもいいよ、買ってやる。選んでおいで。」

「やったー!」とてとてと彩が走って行く。「良いお兄ちゃんじゃねぇか。兄貴君。」

「……俺は兄貴なんて名前じゃないんですって……。」

あ、とカレンダーを見る。

「祭りまで、後二週間か。はやいですね。」

青年は、少し目を大きくした後、顔を伏せる。

「……あぁ。そうだな……。」

「ん?何かあるんですか?祭りの日。」

これだから察しの良い奴は、と青年は少し顔を顰める。

少年は気付かないふりをしているが、その表情もしっかり見ている。子供でも、その位わかるのだ。

祭りの日の前後辺り、かな……?

「打ち上げ花火、楽しみだなぁ。」残りの日にちを知りたい。駄菓子屋の寿命を知りたい。それには、話題を変えないことだ。

「ああ。燕達と行くのかい?」

「はい。店員さんは?」

青年は戸惑う。どう答えれば良い?

駄菓子屋が終わりになる事は、まだ告げたくないんだ。

「あー……、店。此処からも結構見えるんだぜ?」

「へぇ。知らなかった。」

嘘つけ。角度的に此処からは見えないぞ。

もしや、と思う。少年の勘はよく当たるのだ。

……祭りの日?

だとしたら、皆が幸せに楽しんでいる中で店員さんは……。

「ねーえー。彩、これがいいっ!」

彩が出したのは、金太郎飴だ。あの、鮮やかな。

ふわり。

彩が来るだけで、店に色がつく。小学生ってすごいな。店をここまで元気にさせる事が出来る。

「まいど。これ、可愛いもんな。」

「うんっ!」

あぁ……。

一生此処で、こんな笑顔を見ていたかったのに。もう、無理な願い。

でも、まだ二週間も、ある。も、だ。

後少しだけれど……でも……。

「あまーいっ!おいしっ!」

「それは良かった。」

彩が幸せそうに口を動かす。少年はこっそり店内を見渡した。咲歩の言っていた書類も、もう目の届く範囲にはなさそうだ。まぁいい。だいたいの日にちはわかったし。

青年はテレビをつける。彼奴の特集の続きが見たかった。

「じゃあ俺達はこれで……っ⁉えっ……?」

少年は固まった。

「どうした?」

彩がテレビに目を向ける。

「あ、お兄ちゃんだっ!」

「……辻……⁈」

“○○学園の勝利に大きく貢献している期待のピッチャー、辻直哉(つじなおや)君です……”

リポーターが話している。

彼奴の学校の期待の新人、が燕達の幼馴染の“辻”?



***



“今年はー……無理そうだけど……。”

奏舞の声が頭をよぎる。全員揃わない、と言っていたっけ。

駄菓子屋も守れない俺だけど。

彼奴等の為に出来る最後の事を見つけた気がする。

青年は携帯を取り出した。


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