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町の片隅で  作者: 那海晴
7/13

ザラメ煎餅

自転車をがーっとこぐ。兄貴の言っていた事が、本当なら駄菓子屋は……。

やっと、古い看板が見えてきた。なんで何時もよりこんなに時間がかかるんだろう。自転車を乗り捨ててダッシュする。どうせもう古くなった自転車だ。

「兄ちゃんっ!」

燕は叫んでドアを開ける。



***



「おう燕。」扇子をぱたぱたとさせながら、青年はよっと手をあげる。「いらっしゃい。」

「いらっしゃい、じゃねぇーっ!」燕はどん、とレジ台を叩く。「駄菓子屋っ、潰れんのかっ⁉」

「はぁ?何言ってんだよ。俺がばぁちゃんの店を潰す訳ねぇだろ。」青年は何気なく目をそらした。気付いて欲しくなかった。

「だ、だよなぁー……うん。兄貴の奴、嘘言いやがって。」

「兄貴?お前、兄弟がいたのか?」青年は無理矢理話題をそらした。燕はううん、と安心した顔で首をふる。「そういうあだ名の幼馴染。」

「ふーん……。」不思議なあだ名だな、と思う。まぁ、燕の友達らしいけど。

「兄貴も来たんじゃないの?多分、彩と一緒に来たと思うんだけど。」

彩。その名前は聞き覚えがあった。という事は、

「あぁ!彼奴か。」この間、来てくれた少年だろう。なんだ、彼奴とも友達だったのか。てか燕の友達ばかりじゃねぇか。

「で?なんか買っていくのかい?」

「そうだな、そうしようっと。」燕が笑って駄菓子に目を向けた。



もし此奴等が、と青年は考える。もし此奴等が事実を知ったら、どう思うのだろう。この店がたった三週間の命だという事実を。

今まで忘れていたのだから、何とも思わないのだろうか。駄菓子屋はもう必要の無い年齢だ。高校一年生、青春の真っ只中である。駄菓子よりも洋菓子の方がよく食べる世代だ。失くなっても、何も思わないのだろうか。

青年は俯いた。

ばぁちゃんとの、思い出の場所だ。でも……。

「兄ちゃん?どうした?考え込んで。らしくないぜ?」

燕が青年の顔を覗き込んでいた。その手にはザラメ煎餅だ。

「……甘党か?餓鬼か?女か?」

「うるせーな。好きなんだよ。人の好みだ、ほっとけ。」まぁ確かにザラメ煎餅には他の煎餅にはない美味しさがある。

「まいど。」

「ん。」

燕は、何と返答してくれるだろう。

レジ台に寄り掛かってテレビをつけろ、と催促する燕に、青年は問いかけてみる。

「なぁ、燕。」

「んー?なんだよ。テレビつけろよ。」

「駄菓子屋は、大切か?」

失くなっても別に構わない存在だろう?

流石にそこまでは言えなかった。でも、少年にとってのここは、必要とされているものなのだろうか。

「忘れてた俺が言うのも説得力に欠けるけどさ、俺達は大切だと思ってるよ。」

即答だった。

「あんこ玉と遊んだ思い出の場所だしな。てゆーかテレビつけろよ。」

複数形だった。俺は、じゃない。俺達は、だ。

「……本当か?」

「嘘ついてどーすんだよ。兄ちゃん、今日、変だぞ。」それもそうだ。

彼奴等、皆、此処が大切だ、と思ってくれているのか……。

もう、ばぁちゃんの為だけじゃない。

此処を慕ってくれる此奴等の為だ。

「ちぇ。塾の時間になっちゃったじゃんか。じゃあな。またくるぜ。」

燕に軽く手をふる。

悔しい。此処を守れない事が。

テレビをつけた。夏の甲子園、彼奴の学校はまだ勝ち進んでいる。

進んだ道は大分違ったけどさ、お互い良い道だったのかもな。

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