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町の片隅で  作者: 那海晴
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カステラ

はぁあ、と青年は溜息をついた。全く、嫌な日だ。というか、なんでうちにはお金がないんだ。スーツの男達が置いていった資料等々をレジ台に放る。

家賃……というか、土地代だ。まぁ此処に住んでもいるから家賃でも間違ってはいない。

ばぁちゃん、どんだけ貯めてんだよ。ふざけんな。

まぁ、それがばぁちゃんだからなぁ……。

でも、どうしようか。なんとか後三週間は待ってくれている。

……どうしようもない。

俺じゃ守りきれないのは知っている。だったら後たった三週間だけど、少しでも、

「あ、そういえば、」

三週間後って、祭の日か。

打ち上げ花火と共に、この店は散るのか。



かっきーんっ

と、テレビから良い音がする。彼奴の学校は順調に勝ち進んでいるようだ。すごいと思う。期待の新人だとかいう奴も、彼奴も。

俺は借金作ってまで、何やってんだ?こんな誰も来ない駄菓子屋を守って、何になるんだ?ばぁちゃんの為?死んだ人の為って、何なんだろう。死んだ人に伝わる訳でもないのに。

大学も良い所を出て、なのに終着は此処?就職もせずに実家を継ぎ、父親が見捨てた祖母の店を守り……。

これが俺の求めた人生?確かにそうだけど、あんまりじゃないのか?友はあそこまで出世したのに、俺はどんどん下に落ちてゆく。

なんでだよ。

なんでだよ。なんでこんなんなってんだよ。俺は、小学生が沢山来ていたあの頃の駄菓子屋が好きだったのに、畜生、今の駄菓子屋は、お前は、別人じゃねぇか。

……でも……。

悔しい。

こんなものでも、大切だ。それを守れない自分の弱さが、悔しい。此奴にイライラをぶつけてしまう自分が、本当に弱過ぎて、悔しい。

青年は天井を仰いだ。

「あぁ……。」

これから此奴は、俺は、どうなっていくんだろう。彼は祖母と何時も一緒に食べていたカステラをそっと口に含む。懐かしい味だ。大好きな味だ。思い出の味だ。

ばぁちゃん。

ごめんな。

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