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町の片隅で  作者: 那海晴
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たまごボーロ

ふわわ、と(あや)が欠伸をした。そんな所まで梨絵の真似をしなくてもいいよ、と少年は顔を顰める。

……あ、そうだ。

「彩、駄菓子屋さんに行くかい?」

「駄菓子屋さん?」

今更思い出す。そうか、彩は駄菓子屋さんに行った事がないんだ。

(つじ)が好きだった場所だよ。」

今日、駄菓子屋寄ろうぜ!

俺等に何時もそう言っていたのは、辻だった。

連絡のつかない、遠い幼馴染。

「じゃあ行くーっ!」

行こう。俺の、皆の思い出の場所。



***



青年はなんとなく、テレビを見つめていた。夏の甲子園がはじまっている。今テレビに映っている、このチームの顧問を彼奴はやっているらしい。期待の大型新人が云々と興奮した声でリポーターが話している。

同じ日本なのにこの温度差はなんだ。

からん。

音が鳴った。

「いっらっしゃーい。」青年は少し怠そうにテレビを消す。

おや、小学生だ。赤いランドセル。

ぱぁっと駄菓子屋に色がかかった。青年は、壁をそっと撫でる。お前も懐かしかったんだね。

そして、その横にまた、高校生。

「こんにちは。」少年は笑った。青年も笑みを返す。

赤いランドセルをころんことんと鳴らし、少女は店内を見渡す。

「お兄ちゃん。何買ってもいいの?」

お兄ちゃん、を指すのは青年ではなく高校生の方だ。

「ああ。」

「やったー!」……なんて、懐かしい光景だろう。

「妹さん?」青年は、疑問を発した。

「いいえ。世話の焼ける幼馴染の妹ですよ。」

そっと笑う。少女は駄菓子を物色中だ。

「こんなお菓子、見た事なーいっ!すごーいすごーい!」

そうか、今の小学生は駄菓子を余り口にしないのだな。俺は寧ろ、駄菓子しか食べない小学生だったのだけれど。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!ここはお菓子の国なの?」

少年が苦笑いをする。

「駄菓子屋さん。」

「ダガシヤサン?」その言葉すら、知らないのか。流石にそれは珍しいぞ。

「……ま、お菓子の国でいっか。店員さん、お婆ちゃんはいますか?」

そっと首を振った。少年はあ、と自分を責める様な顔をする。

「あ……。すみません。」なんて、いい奴なんだろう。

最近、テレビとか新聞とかでは子供の事を常識がなってない、とか礼儀正しくない、とか頭が悪くなった、とか言うけどそんな事ないんだ。青年は考える。そんな人は一部分だけで、本当はいい奴も沢山いるんじゃないのか。そんな事を世間に教えこませてる大人達の方が酷いんじゃないのか。

「お兄ちゃんーっ!彩、これが欲しいっ!」

「あー、はいはい。すいません、これ、お会計お願いします。」

いっそ商品全てを買って欲しいところだけど、それは流石に無理だ。

「たまごボーロか。懐かしいな。いいのを選んだね。」

「うんっ!」

「有難うございます。」青年は満面の笑顔で会計を済ませる。小学生の嬉しそうな顔。

あぁ……。何年ぶりだろう。

「それにしても……、此処は何も変わってないですね。」

質問の意図がわからず、青年は戸惑う。

「たった数年なのに、町はすっかり変わりましたよ。小学校は廃校が相次ぐし、道を歩いても高齢者にしか会わないし。商店街も殺風景だ。彼奴が町を出ていった気持ちも、なんとなくわかるような気がする……。」

おそらく、少女の兄は、出ていってしまったのだな、と青年は悲しく思った。

出ていかないで。町がそう、叫んでいる気がした。

町も、寂しいのかな。

「ここだけは、変わらないで下さい。」

「……あぁ。」叶える事の出来ない願い。

悔しい。



***



彩と駄菓子屋を出ると、入れ違いでスーツを着た男達が入っていった。場違い過ぎて、少年は不思議そうにその男達を見る。

「ーさん。」

青年の苗字が聞こえる。どうしたの、と訊く彩をよそに、そっと駄菓子屋に耳を寄せた。

「……だからね、そろそろ家賃を払ってもらわないと……」

「お願いします、後一ヶ月……」

「どうせ、お客なんて来てないんでしょ?本当に迷惑だから……」

「お願いしますっ……!」

「そう言われても、こっちはさ……」

……駄菓子屋が、

俺等の思い出が詰まった駄菓子屋が、なくなっちゃうのか……?

気付いても、高校生の俺には、何も出来ない。

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