町の片隅で
辺りが暗くなって来た。青年は、ドアにかかっている札をcloseにして、店を見上げた。継いで良かった。心からそう思う。彼奴等が来てくれて、良かった。駄菓子屋の孫で良かった。この町で産まれて良かった。
婆ぁちゃん。俺を育ててくれて、有難う。あんこ玉。うちに来てくれて有難う。それから……、
咲歩ちゃん。駄菓子屋を覚えててくれて、有難う。
梨絵ちゃん。婆ぁちゃんを大切に思ってくれていて有難う。
彩ちゃん。うちを気に入ってくれて有難う。
辻君。俺の我儘を通してくれて、有難う。
奏舞君。俺の知らなかった婆ぁちゃんを教えてくれて有難う。
兄貴君。何時も彩ちゃんと一緒に来て店を明るくしてくれて有難う。
……燕。何度も何度も来てくれて有難う。
それから、お前だな。
青年は、壁をそっと撫でた。
短い間だつたけど、守らせてくれて、一緒にすごしてくれて、有難う。
青年は店に入る。木製の棚。子供の落書き。小さなテレビ。色褪せたレジ台。潰れた朱色のクッション。今はないけれど、色鮮やかな駄菓子。沢山の玩具。文房具。全て、目に焼き付けておこう。全てを。
***
「お兄ちゃん、彩、射的やりたいっ!」
「さっきやったばかりだろうがよ……。」
浴衣を着た七人は、ゆっくりと屋台の列の中を歩く。
りんご飴を舐めながら、咲歩がなんでもない事の様に呟いた。
「お兄さん、どうしてるかな……。」
「今日で本当に閉店なの?」間違いないよ、と頷くのは辻だ。
「電話でそう言っていたんだ。」
「てかなんで店員さんが辻を?」
「俺の監督の友達なんだって。」返事になってない気もするが、世の中って狭いなぁ、と思ってしまう。
「駄菓子屋さん、本当になくなっちゃうんだね……。」沢山の思い出が、彼処には詰まっているのに。
「まぁ、しょうがないのかもな……。」此処は、少子化の進んだ小さな町。この中で生き延びてゆくのは困難だ。その位知っている。
「あ、後五分!」声をあげたのは燕だ。「行こう、咲歩、梨絵、奏舞、辻、彩、兄貴!」
「おうよ!」
「だから、俺は兄貴なんていう名前じゃないんだって……。」
打ち上げ花火まで後五分。七人は走り出した。
***
店の看板を、ゆっくり眺める。花火があがりはじめたら、この看板もはずそう、と心にきめながら。
すると、
「.にっいちゃーんっ!」燕の声した。
「……?燕?皆?」
「……ったく、無駄に足がはええよ、燕は。」
「つっかれたぁ……。」
なんのまだまだ!、と言って燕は、青年の服をひいた。「行くよっ!」おう、と他の面々も声をあげる。
「はっ⁈行くよって、何処へ⁈」
「いーからいーからっ!」
走る。
八人は走り出す。
燕が先頭を切って走り、辿り着いたのは森の中。木が少し少なく、町が全部見渡せる場所。
「後二分!」辻が嬉しそうに叫んだ。
「……花火か?だったら観覧席で見た方がいいんじゃ……。」
「かっかっか!甘いな、兄ちゃん!」燕が笑って木に登った。「此処からが一番いーんだよ!まぁ見てなって!」顔を顰めるのは梨絵だ。
「ちょっと燕。浴衣で木に登るの?止めてよはしたない。」
「あー?いいって事!」
「何がだ。何処がだ。」
「後一分!」燕、落ちるなよー?大丈夫大丈夫!そんな会話が繰り広げられている。
全く、本当に仲が良い連中だ。
「後十秒っ!」カウントをはじめる、七人。
10、9、8、7、6……
「……兄ちゃん。」上から声がした。「本当に、有難うな。」辻を呼んでくれた事も、駄菓子屋を守ってくれていた事も、俺達を覚えていてくれた事も。
0っ!
どぉぉぉん、と派手な音が鳴った。うわぁぁぁ、と子供ならではの声が響く。
「あぁ……。」確かに良い眺めだ。
小さな町の片隅で、一人の青年はそっと涙を流した。




