小豆バー
「おう、燕!何処に行くんだ?」
燕は自転車を止める。ききぃっと甲高い音が鳴った。
「おう、魚屋のおっちゃん!今年の打ち上げ花火の準備の手伝いだよ!人手が足りねぇみたいでさっ。」
まぁ毎年毎年人が減っていくしな、と悲しそうな呟き。
「直哉は帰ってくるのかい?」
「あー?辻?帰ってこないんじゃね?」
セリフと共に、また走り出した。
自転車を倒して、燕は走り出す。
「おっまたせーっ!」
「おっせぇぞ、燕!」奏舞だ。「もう準備、始まってんだからなぁ!」
「悪りぃ悪りぃ。」観客席を用意したり、駐車場の案内をだしたり、祭りの旗をあげたりと、この日、町は賑やかになる。
でも、少子化が進んだこの町の祭りは、後少ししか続かない気がするんだ。駄菓子屋みたいになっちゃう気がするんだ。
「てか燕。駄菓子屋の件、どーすんの?もう後一週間だよ?」梨絵の声に、目を逸らす。
「この間話してたのでさぁ……本当、上手くいくわけ?」
「だぁいじょうぶだって!」燕は旗を担ぎ上げながらにかっと笑った。「俺等の高校でも駄菓子屋通ってた奴は多いし、それに現役小学生の彩がいる!」
「まぁそうだけど……。」
兄貴がぽん、と梨絵の肩を叩いた。
「ま、やれるだけやってみよーぜ。な?」
頷いた。
***
青年は、そっと息を吐いた。カルメ焼きの入ったタッパーをあんこ玉の墓の前に供える。
後、一週間。
祭りが近づいて、町は珍しく騒がしい。楽しい雰囲気で溢れかえっている。
あーあ。
何してんだろ、俺。
エプロンを着る。
店の前に水をまく。
菓子を綺麗に並べる。
窓を開ける。
ドアの札をopenにする。
レジの所に座ってお釣りがあるかを確かめる。
何時もの毎日。
後一週間しかない毎日。
あ、これからどうしようかな、と青年は考える。就職口を探さないと。
あ、あんこ玉の墓、どうしよう。
あ、荷物、片付けていかないと。
あ、
あ、
あ、……。
「ごめんな。」何度目だろう。「守れなくて。」呟くのは。壁を、そっと撫でる。夏の空気を吸ったのか、どことなく温かい。
この店が好きだった。
守りたかった。
何時も一緒にいてくれた、恩返しをしたかった。
「……ごめんな。」
からん。
音が鳴った。燕だ。
「あっちー。兄ちゃん、スイカない?スイカ。」
「……此処は駄菓子屋だ。」
「ちぇー」
どっか、とレジ台の目の前に座る。
「……アイスならあるぞ。」
「おおおっ!神ってる!」
「駄菓子屋だからな。」
代金を払ってすぐに、小豆バーをかじった。
「小豆バーか。美味いよな、それ。」
「なーっ!」
不思議な味。大好きな味。
「……なぁ、兄ちゃん。」
ん?、と青年は燕に目を向ける。
「もうすぐ、花火だな。」
町の名物、打ち上げ花火。
「……あぁ。」
「……辻、帰って来ないのかな……。」
有名人になってしまった友。
遠くなってしまった、友。
そりゃ、寂しいよな。
「……帰ってくるさ。」
「え?」
俺がお前等に出来る、最後の事。
「辻君は帰ってくる。絶対に。」
「あー……お、おうっ!」
そう言ってもらえるだけ、嬉しかった。
燕の背中を見送りながら、ふと思う。後何回、この背中を見送れるだろう。
ゼロ?
これで、おわり?
それも、ありえる。悲しいけど、ありえるのだ。
「有難うな。」
その背中に、小さく呟いてみた。




