麩菓子
青年の昔の友人は、お疲れ、と自慢のピッチャーに声をかける。
「今日も良い球だった。優勝も夢じゃないぞ。」
「有難うございますっ!」少年は、辻は嬉しそうに笑った。その手には……、かりんとう?
「ああ、これは麩菓子ですよ。」辻は笑う。「好物なんです。今日、食べたくなっちゃって。」
「へぇ。また珍しいものが好きなんだな。」
「家の近くに駄菓子屋さんがあって。だから駄菓子全般、好きですね。」
良い環境で育ったのだな、と思う。素直で面白くて、一年生エースなのに皆からの信頼も厚い。本当に良いピッチャーだ。
「まぁいい。次は準決勝、一週間後だ。気合を入れていけよ。」
「はいっ!」
そういえば。
この間のメールを思い出す。
インタビュー直後、彼は携帯にメールが入っている事に気づいた。青年からのものである。
「珍しいな……。此奴からメールをするなんて。」
開いてみて……、驚いた。たった一言だけ書かれたメール。なのに内容がめちゃくちゃだ。
“辻直哉を二週間後、○日に連れてこい。”
全く。なんなんだ、此奴は。今大切な試合の真っ只中だと知っているだろうに。
“無理だ。”
そう、送って三日。返信は来ない。諦めたのか、まだ携帯を見ていないのか……。
おそらく、後者だ。面倒臭い事に。
はぁ、とため息をついて携帯を開く。何を考えているのかはわからないがおそらく、そろそろ……。
やっぱり。
丁度、メールが入った。
“頼むよ。”
もう一度ため息をつく。
“無理だって。今は大事な時なんだから。”
すぐに返信したのだから、見ているだろう。彼はまあいい、とミーティングを始めた。
「皆、今日はお疲れ様。しかしまだまだこれからだ!次は準決……、」
着信音が鳴った。
彼の携帯だ。
彼奴、死ねよと携帯をマナーモードにする。
「すまない。えっと、今日は……、」
「監督、バイブ鳴ってますよ。電話じゃないですか?」
全く此奴はっ!
「……なんでもない。気のせいだ。」ぶっと数人が吹き出した。着信音まで鳴らしといて気のせいって。……呟いたの、誰だ。
「出たらどうですか?」キャプテンだ。「俺が反省、進めとくんで。」
「わりぃな。」
「いいんですよ。監督、友達少ないんだからその貴重な友達、大切にしねぇと。」
此奴め。
画面には予想通り青年の名が出ている。ため息をついた。
「……なんだ。」
『辻を連れて帰ってこい。』
「あのなぁ。うちも大変なんだぞ。確かにその日はもう甲子園は終わってるが、辻だぞ。インタビューに練習試合にって、予定ぎっしりなんだ。」
『ああ?知るか、そんなん。』
全く……。
『……まぁ、いいか。辻直哉君に代わって。』
「はあ?今話し合い中なんだけど。」
『……うちで万引きしてた事、マスコミにばらすぞ。』
うわっ。何年前の話しだよ。しかも謝ってちゃんと金も払ったじゃねぇか。
でも、それが流出したら痛い。
「……辻ー……。」
自慢のエースは振り返った。「そんな声で呼ばないで下さいよ。なんですか?」
「俺の友達がお前をお呼びだ。」
疑問符を顔一杯に貼り付けて此方にやってくる。
「はい、辻直哉です。」
全く、彼奴は何がしたいんだ?
辻が、急に真剣な表情になった。
「どうした?」
「……監督……。」
全く、
「○日、この人に会いにいってもいいですかね?」
「……は?」
なんだってんだ。
「麩菓子あげますから。お願いします。」
「……いや、いらねぇよ……。」




