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町の片隅で  作者: 那海晴
10/13

麩菓子

青年の昔の友人は、お疲れ、と自慢のピッチャーに声をかける。

「今日も良い球だった。優勝も夢じゃないぞ。」

「有難うございますっ!」少年は、辻は嬉しそうに笑った。その手には……、かりんとう?

「ああ、これは麩菓子ですよ。」辻は笑う。「好物なんです。今日、食べたくなっちゃって。」

「へぇ。また珍しいものが好きなんだな。」

「家の近くに駄菓子屋さんがあって。だから駄菓子全般、好きですね。」

良い環境で育ったのだな、と思う。素直で面白くて、一年生エースなのに皆からの信頼も厚い。本当に良いピッチャーだ。

「まぁいい。次は準決勝、一週間後だ。気合を入れていけよ。」

「はいっ!」

そういえば。

この間のメールを思い出す。



インタビュー直後、彼は携帯にメールが入っている事に気づいた。青年からのものである。

「珍しいな……。此奴からメールをするなんて。」

開いてみて……、驚いた。たった一言だけ書かれたメール。なのに内容がめちゃくちゃだ。

“辻直哉を二週間後、○日に連れてこい。”

全く。なんなんだ、此奴は。今大切な試合の真っ只中だと知っているだろうに。

“無理だ。”

そう、送って三日。返信は来ない。諦めたのか、まだ携帯を見ていないのか……。

おそらく、後者だ。面倒臭い事に。

はぁ、とため息をついて携帯を開く。何を考えているのかはわからないがおそらく、そろそろ……。

やっぱり。

丁度、メールが入った。

“頼むよ。”

もう一度ため息をつく。

“無理だって。今は大事な時なんだから。”

すぐに返信したのだから、見ているだろう。彼はまあいい、とミーティングを始めた。

「皆、今日はお疲れ様。しかしまだまだこれからだ!次は準決……、」

着信音が鳴った。

彼の携帯だ。

彼奴、死ねよと携帯をマナーモードにする。

「すまない。えっと、今日は……、」

「監督、バイブ鳴ってますよ。電話じゃないですか?」

全く此奴はっ!

「……なんでもない。気のせいだ。」ぶっと数人が吹き出した。着信音まで鳴らしといて気のせいって。……呟いたの、誰だ。

「出たらどうですか?」キャプテンだ。「俺が反省、進めとくんで。」

「わりぃな。」

「いいんですよ。監督、友達少ないんだからその貴重な友達、大切にしねぇと。」

此奴め。

画面には予想通り青年の名が出ている。ため息をついた。

「……なんだ。」

『辻を連れて帰ってこい。』

「あのなぁ。うちも大変なんだぞ。確かにその日はもう甲子園は終わってるが、辻だぞ。インタビューに練習試合にって、予定ぎっしりなんだ。」

『ああ?知るか、そんなん。』

全く……。

『……まぁ、いいか。辻直哉君に代わって。』

「はあ?今話し合い中なんだけど。」

『……うちで万引きしてた事、マスコミにばらすぞ。』

うわっ。何年前の話しだよ。しかも謝ってちゃんと金も払ったじゃねぇか。

でも、それが流出したら痛い。

「……辻ー……。」

自慢のエースは振り返った。「そんな声で呼ばないで下さいよ。なんですか?」

「俺の友達がお前をお呼びだ。」

疑問符を顔一杯に貼り付けて此方にやってくる。

「はい、辻直哉です。」

全く、彼奴は何がしたいんだ?

辻が、急に真剣な表情になった。

「どうした?」

「……監督……。」

全く、

「○日、この人に会いにいってもいいですかね?」

「……は?」

なんだってんだ。

「麩菓子あげますから。お願いします。」

「……いや、いらねぇよ……。」

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