表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
町の片隅で  作者: 那海晴
1/13

お面の少女

ばぁちゃんのやっていた、駄菓子屋が好きだった。小学生が学校帰りに少ないお小遣いを駄菓子と交換して、笑顔で帰っていく……。そんな、暖かい駄菓子屋が。

そこには、ばぁちゃんの柔らかい笑顔があった。子供の嬉しそうな笑顔があった。色鮮やかなお菓子。くだらない、けれど欲しくなる不思議な玩具。小学生に必要な文房具……。


だけど、ばぁちゃんがいなくなって全てが消えた。


小学生は、もうこない。お菓子も玩具も色褪せてしまった。

ばぁちゃんの駄菓子屋は、存在しているだけ。立っているだけ。もう、暖かくない。皆の中に、もういない。俺の大好きなばぁちゃんの駄菓子屋なのに。皆も大好きだったはずなのに。


だから、俺が最後まで守ってやる。


ばぁちゃんの守っていた駄菓子屋を。俺が大好きな駄菓子屋を。皆が大好きだった駄菓子屋を。


これは小さな町に住む青年と、小さな町を見守る古い駄菓子屋のお話。


***


懐かしいな。

空を見上げる。今日の空、私でも飛べそう。

久しぶりに駄菓子屋さんに足を向けた。“お面の咲歩ちゃん”と何時も呼んでくれていたお婆さんは、元気だろうか。


***


スーツを着た、場違いな男達を適当に追い払い、青年はため息をついた。最近、何時もこんな毎日だ。青年が駄菓子屋を今は亡き祖母から譲り受けて三年。高齢化が進むこの地域では、もうお客が来る事等ないだろう、と青年は考えている。この町には大規模な打ち上げ花火以外、何もない。

でも、俺はこの駄菓子屋が人生を終えるその日まで、一緒にいてやりたいんだ。

レジの奥にあるテレビをつける。そういえばもうすぐ高校野球のシーズンだな、とぼんやり思った。どうでも良いのだが。

そんな日々だったのだから、青年が驚いたのは無理もない。

からん。

久しぶりの音だった。

「……えっと、こ、こんにちは?まだやっているのかな?」

高校生らしい制服を着た、一人の少女。青年は目を見開くがすぐに笑みを作る。

「こんにちは。」久しぶりの、お客さん。うわぁ、と少女は嬉しそうな笑顔を見せる。

「小学生の頃はよく来てたんだけど……。失くなってなくて良かったぁ。お婆さん、いいお歳だったから……。貴方が継いでくれたんだね、お兄さん。」

少女は頭を下げた。「有難う。」何が?、とは、何で?、とは訊けない。

でも、彼女にとっても此処は大切だった場所なのかな。

「なにかお探しですか?」

「ううん。お婆さんが懐かしくて来たくなっただけー。あ、でもせっかくだから何か買っていこうかな。」少女は軽くステップを踏んで、店内を笑顔で散策し始めた。

笑顔だった。

青年が大好きな、この駄菓子屋の笑顔。



「うわーっ!この玩具、懐かしいっ!」少女が触れた玩具に、色が戻ってゆく。まるで、主人を見つけた、とでも言う様に。

「……買ってあげて下さい。」

「へ?」

少女は、ぽかんと口を開く。

「あ、否……。な、なんかその玩具が君を呼んでいる気がして……。」

少女は口を閉じて少し考えた後、ゆっくりと笑った。

「面白い人だね、お兄さん。……そうだね、買おうかなぁ。」

レジにポン、と出されたのは、先程の玩具と……、兎のお面。

「……お面?」

少女はうん、と頷いて、代金を置いた。

「お面が好きで集めてるんだ。なんか、違う自分になれる気がして。」

不思議な子だな、とお釣りを渡しながら……、ふと思い出す。ばぁちゃんがいた時、何時もお面を買っていた、小さな女の子を。

あの子が……、この子?

何時も大人数で来ていた。

「……他の、子達は?」つい、口から漏れる。勿論少女はえ、と硬直した。

「あ、否……。なんか、昔お面を祭の季節じゃないのに何時も買いに来る子がいたなって。君じゃなかったのなら、御免。」

しばらく待ってみる。少女はやっと、金縛りから自分を解放した。

「あ……、うん。それ多分、私だよ。」他の皆は……。「高校生になって、皆ばらばらになっちゃったから……。」

「そうか……。あんなに仲が良かったのにな。」どんなに仲が良くても、目指す物は違う。それは当たり前なのだが。

少女の瞳が悲し気に揺れる。

「今年は、皆でお祭り、行けないだろうな……。」

そして、それを振り払うかの様に満面の笑みを作った。

「お兄さん、有難う!またくるね!」


***


携帯を耳にあてる。

「もしもし、梨絵?咲歩だよー。」

少女はお面を眺める。

「お婆さんの駄菓子屋さん、まだあったよ。面白いお兄さんがいるの。」

また、行かなくちゃ。

何故か、そう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ