ep3.嫌な予感がしたので駆けだした俺は
俺は悪い予感が当たらないように願いつつ、魔王城に向かって走っていた。
この予感が正しければ、この世界において生まれる勇者が襲撃に来たのかもしれない。
勇者には二種類ある。異世界から召喚される正式な勇者とこの世界で誕生する特異点としての勇者。
前者は『アヴァロン』という国にのみに許された勇者召喚の儀で呼ぶ勇者。
なにかしらのスキルを持っている他世界の特異点をこの世界に呼び出す者のことである。
後者はこの世界にて1000年に1人生まれる主人公としての異常性を持つこの世界の特異点で、生まれたときから悪を倒すことしか考えられない傀儡だ。
正直コッチは本当に質が悪い。自分が悪と決めつけた相手は世界にとっての敵となる。
この世界の勇者と魔王の対立の始まりは特異点と魔族の少年の些細な喧嘩だったらしいからね。
この世界でそう言うことがなければ亜人はきっと受け入れて貰えただろうにさ。
俺の横から何かが通った。槍の様な、弓矢の様な。そんなナニカだ。
俺がきっと予想以上に走っていたから当たらなかったんだろう。毒矢だったら嫌だなあ。
「……ッ」
またナニカを撃つ様な音が聞こえた。相手は中距離にいると考えるべきだろう。
ナニカが飛んできたルートを辿っていくと、一つの人影が見えた。男か女か、大きいか小さいかは解らなかった。
「誰だッ」
そう言いながら俺は人影に向かって魔法を放った。所謂光の魔法というやつだ。
どうやら俺の異能とやらは『努力をすれば十全程度にはなる』という感じのヤツの様だ。
故にお義父さんに頼み込んで俺は闇属性の魔法と風属性の魔法、そして氷属性の魔法を勉強した。
まさかお義父さん自身俺に教えた魔法を俺が全部十全に使いこなせるとは思っていなかったようで、驚いていた。
そこから魔導書やラノベで培った知識をフル活用し、光属性の魔法、火属性の魔法、雷属性の魔法、土属性の魔法を使うことが出来るようになった。
だが、得意不得意があるようで『光>火>風=無≧雷>土>氷≧闇』という順番である。なんだかんだで自分が勇者であることを自覚したのはこの時だった。
「っく……ッ!」
「逃がすかよ!17柱の光の精霊よ。かの者を捕縛せよ。【シエル・バインド】!」
人影の足下から光り輝くドーナツ状の魔力の塊が出てくる。これがシエル・バインドである。
俺の得意とする魔法の一つで、相手を魔力の縄で締め付け、身動きが出来ないようにする魔法だ。
これは闇の解呪魔法でしか解くことは出来ず、もし解くコトができたならソイツは魔族であるということが解る判別の魔法でもある。
もし、解くことが出来るようなら謀反ということで、緊急性は低くなる。お義父さんが同じ魔族に負けることはないだろうからな。
「……殺せ。さもなくば舌を噛みtンググ!?」
「喋るコトを許した覚えはねえぞ。先ず俺の質問に答えて貰おうか」
「ングググググ!!」ブンブン
断固答えるか。そう言っているかの様に首をブンブン横に振っている。つか、コイツ立場解ってんのかねえ?
まあ、女性だし、あんまり荒事をしたくないは無いんだけど、コイツはそんな俺の心遣いをスルーしてんのか。
いや、心が読めない時点で心遣いなんて解らないんだろうけど。
「フム、答えないようならお前をこの状態で『お尻叩き100連打』を繰り返しながら戦場を駆け抜けることになるが良いか?」
「!?」ブンブンブンブンブン
「だろ?お前は今答えるしか道がねえんだよ。さあ、俺の疑問には肯定か否定の意思を示せよ?」
「……」コクン
少し間を開けてうなずいた。正直少し驚いた。
俺としては、若干『お尻叩き100連打』をすることに興味があったんだが、まあいいか。
この女性もきっとそれだけは許すことが出来なかったのだろう。チラとフードの中を見たが普通に美女だった。
もし嘘をついているコトが解ったらその時に実行することにしよう。そうしよう。
俺は一応ある程度なら相手が嘘をついているかどうかを判別することが出来る。
向こうでは生きる嘘発見器と言われているくらいには活躍していたからな。
「コレは勇者の仕業であるか?」
この質問に美女は首を縦に振った。どうやら俺の嫌な予感は当たっていた様だ。
正直に答えてくれたこの美女は俺の家に転位させることにしようか。
俺はどうやらもっと急がなくてはいけないようだし、この身体を持って駆け抜けるコトは出来そうにないからな。
「よし、んじゃあ、飛んでけ!」
まあ、届いた瞬間にアイツ等はパニくるんだろうなと想像しながら魔王城に駆けだした。
その際に右手に光の魔法の剣を、左手に闇の魔法の剣を出して駆けていた。
●
「……コレで貴様等魔族も終わりだな」
「俺を倒した程度でこの国が滅びると?ッハ!チャンチャラ可笑しいねェ!!俺には出来過ぎた義息子がいるんだよ。俺が死んだ時点で魔王の権利は全てソイツに移るんだよなァ」
「……ソイツも纏めて皆殺ししてやる」
「出来るモンならやってみなァ?アイツはテメェ程度の特異点に殺せる筈がねェからなァ」
……俺は本ッ当にギリギリのタイミングで来たみたいだ。
危うく俺が魔王になってしまう所だった。ふぅ、危ない、危ない。なんて言ってる場合じゃないな。
「8000柱の精霊よ。顕現し、かの者を刺せ。【イノセンス・ソードバレル】!!」
光によって出来た8000の剣軍が現れる。見渡す限りが剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣。
次の命令を待つかのように全てが其処で微動だにせず待機している。
「光属性だとッ!?それもこんな数ッ!?」
「……おいおい、来ちまったのかよ」
「俺は未だ魔王はしたくなくて、リアも泣かせたくなくてな。悪いが自分勝手、身勝手に助けるから勝手に助かってくれ」
「ッハ、言ってくれるねェ!!」
「ま、と言うわけで登場早々にご退場宜しく頼むわ。【ファイア】」
まるで魔法が蚊柱の様だ。うん、自分で8000の剣軍出したんだが、気色悪いな。
しかも速度が速いのに物凄くスローに見えるから本当にぬめぬめ動いて気持ち悪い。
どうやら隣の友人兼お義父さんの魔王様も俺と同じ感想を抱いた様で口に手を当てている。
「……ック、覚えていろ!【テレポーション】!!」
「何その三下臭しかしないセリフは。だがねえ、魔力同士の干渉によって起こる魔素の波が魔法の公使を阻害するから発動出来ねえぞ」
魔法により魔法が阻害されるなんていう研究はされて無かったみたいだからな。
前、俺が限界を見たくなり、500柱ずつ増やしていると丁度8000柱で魔法が発動出来ないことを知った。
ついでに俺の限界は1000000柱だった。一気に出したは良いんだが処理が中々に厳しかった。
なんとか全部掌握して自分の中に詰め込んでなんとかなったんだが、なんか余計に魔力量が増えたような気がした。
今出せば二倍は出せるような気がする。……アレ?コレ魔力無限化できるかもしれないんじゃ?
「なん……だと!?」
「んじゃ、ゆっくりじっくり死んでいってね!」
「グ、グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
剣が身体を突き刺していき、身体が剣で埋め尽くされ肌が全く見えないようになる。
……これぞ正しく身体は剣で出来ているってか?
「……お前、中々惨いな」
「敵でしかないからな」
俺は敵に情けを掛けない。もし情けを掛けて後で痛い目にあうのは嫌だからな。
そんな主人公みたいな男らしいことをするのはラノベの中だけで十二分だ。コッチに被害は来て欲しくないからな。
「……にしても、俺も老いたなァ」
「思っても無いことは言うもんじゃないぞ?少なくとも1000年に1度の特異点相手に対等に戦っている時点でおかしいからな」
「……圧倒的な数で押しつぶしたお前に言われたくねェ」
……それもそうだな。まあ、反省も後悔もまあまあすらしてないけどな。
取り敢えず家に帰って、あの美女に色々聞かなければならないし。
●
「……葵、一体どういうことかな?3行でお願い」
「俺がどこか嫌な予感を察知。
俺取り敢えず急いで走ると美女に出会う。俺其処の美女と戦い、話を聞き、転位させる。
魔王城にてお義父さんピンチ、特異点と対峙。
特異点退治完了」
「……なんでわざわざ4行にしたの?いや、まあそれは良いよ。で、大丈夫だった?」
「ん?お義父さんは無事だったぞ。結構重傷だったが」
「いや、葵のことだから」
……えー。
「ま、まあ、俺は8000柱の魔法使って相手を圧殺しただけだからな」
……それにしても美女は寝っぱなしか。どうやって起こそうか。
『お尻叩き100連打』が良いんだろうか。それとも『脇下擽り50秒』が良いんだろうか。
「どっちも変態的だねっ!でも、例え葵がどんなに畜生変態でも受け入れるよっ!」
……うおう、そうだ。コイツは俺の心が読めるんだった。
だが、俺は別にやましい心を持っているわけではないからな。別に読まれても構わん!
「んじゃ、いただきます」
さあ、明日はどんな日になるのか楽しみだな。
なんて思っていた時期もありました。
朝にお義父さんから呼び出しがかかって何だろう?と思いつつ謁見の場に行くと、『俺、力が衰えたからそろそろ引退するわ。んじゃ、葵。宜しくゥ』と言われてしまって思わず固まってしまった。
幹部の奴らは昨日の襲撃で重傷になったヤツが多いから自分で周りを固めろとのコトだ。
俺はそれを聞いてただ一言を発した。
「巫山戯んじゃねええええええええええええええええ!!」
プロローグ 魔王の娘の彼氏になった俺は 【完】
取り敢えず第一話完です。
第二話の最初は明日にでも書こうと思ってます。
え?クリスマス?ナニソレおいしーんでぃすかぁ?




